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ボランティア活動という体験は宝物。ここは自分を育ててくれた大切な場所

ボランティア活動という体験は宝物
ここは自分を育ててくれた大切な場所

 

医療関係に従事されている山下さん(仮名)。臨床心理士の資格をもち、普段から知的障害や重複障害を持った方と接しています。大学生のころに「ふみ月の会」に参加し、社会人になってから久しぶりにボランティア活動の現場に戻ってきました。学生時代からボランティアをされている山下さんに、近況や過去の体験について伺いました。

 

山下さんは医療関係のお仕事をされていると聞きます。現場でも障害者の方と接する機会が多いそうですが、職場でボランティアの経験が役立つことはありますか?

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以前は、スタッフの方から担当する子の課題を聞いて、そこにばかりフォーカスしていました。参加するプログラムがあれば「それをこなさなければならない」と自分が焦っていたんです。いまは担当する子の「いろんな面が見たいな」と思っています。「今日一緒になる子はどんな子かな?」とワクワクしながら現場に行き、担当の子に会ったらその子のいいところを探します。社会人になってから視野が広がったのは、学生時代の経験が生きているからかもしれません。意識はしていませんでしたが、仕事を初めてからその違いがわかりました。

 

具体的にはどんなことがあったんでしょうか?

たとえば料理をするプログラムがあったら、活動内容は料理をすることです。ですが、本当の目的は料理をすることではありません。料理はあくまでも手段で、料理を通じてなにかを体験してくれればいいんです。社会人になる前にボランティアを通して、手段と目的は違うと学びましたが、それを肌で実感できました。

普段も医療系の仕事をして、ボランティアにも参加すると大変じゃないですか?

自分でも疲れるかな? と思ったのですが、そんなことはありませんでした。逆に学生時代の方が無理をして参加していたと思います。自分が無理をしていると、子どもにもしわ寄せがいくというか、うまく関係性を築けないことがありました。それで「うまくいかなかった」で終わってしまう。その後に「ふみ月の会」のスタッフさんから歯に衣着せないご意見をいただいて(笑)、それを持ち帰って反省していました。厳しいことを言われたこともありましたが、だからと言ってボランティアを辞めようと思ったことはありませんでした。

スタッフの方からはどんなアドバイスがあったのでしょうか。

思っていることや、自分の感情をストレートにぶつけなさい、ということですね。でも自分自身がなにを思っているのか、気づけなくて。アドバイスをいただいても、どうしたらいいのかわかりませんでした。ストレートに表現する=怒る、ということなのか……いま振り返ると当時は感情すら持てていませんでした。人の感情がわからなくて焦ってしまったり、悲しくなることがありました。悲しくなったときに、「あ、いま私は悲しい」と気づけて、それは自分の中で大きなできごとでした。私は福祉施設のスタッフや子ども達との関わりを通して人間にしてもらったと思っています。

ボランティア活動では、学校で勉強する以上の学びがあったのでしょうか。

本を読んでいると、「ふみ月の会」での経験やスタッフの方がおっしゃっていた言葉とリンクすることがあります。ボランティアをしていて何度もハッとさせられることがありました。大学の勉強だけでは得られなかったことが学べましたね。頭でっかちになっていたのかもしれませんが、ボランティア活動をして考えるのをやめました。悲しくなったら泣けばいいや、嬉しかったら笑おうと思えるようになって。それが私の感情なのかなって。吹っ切れてからはスタッフの方がおっしゃっていることもなんとなく「こういうことに近いのかな」と自分なりに咀嚼できるようになってきました。

 

ピンチのときは、子どもの方がちゃんとする

今までとまどったり、困ったことはありましたか。

たくさんあります。みんなでハイキングに行ったときに、自分の担当の子がゆっくり歩いていて、列から遅れてしまうことがありました。スタッフの方たちと離れて二人っきりになるのが怖かったですね。なにかあったら大変ですし、早く歩いてほしいと思います。でも、それって自分が安心したかっただけなんですよね。その子にとって、列を乱さずに歩くことは重要ではないんです。遅くても、迷っても自力でゴールへたどり着くことが大事なのです。しかも、そういうときに誰も助けてくれないんですよね(笑)。道に迷ってこちらは一杯いっぱいなんですが、案外子どもは平気だったりします。一緒に迷子になった女の子はとてもお姉さんな対応で、交番へ道を聞きに行ってくれたりしました。イレギュラーなことがあっても大丈夫で、こちらがピンチだと察して子どもの方が「ちゃんとしなきゃ」と動くんですよね。施設のスタッフは、そこまで信頼して、放任しているんですが、こちらはそれどころじゃありませんでした(笑)。

一緒に迷子になるのは不安ですね。マニュアルはあるのでしょうか。

ありません。なのでその分、こちらが本気にならざるを得ないです。どうしたらいいのか、全力で考えます。迷子になったときも相手の子に「私たちは迷子になったら頑張って帰りましょう!」と一生懸命説明しました。

 

山下さんは5年間、ボランティア活動を続けてきたと聞きます。お話を伺っていると、大変なことも多く感じますが、なぜ長期間、続くのでしょうか?

ボランティアに行ってただ楽しく終わってしまったら、続かなかったと思います。障害を持った子たちと接していると腑に落ちなかったり、わからないことがたくさん出てきます。毎回、自分にとって課題というか、宿題みたいなものが出てくるんです。わからないことがいっぱいあって、スタッフの方に聞いてもわからないことを言われて……その「わからなさ」を理解したかったんです。それで続けていたのかもしれません。いまでもわかりませんが、でもまた行きたいと思います。

それはなにか答えを探しに毎回行っているということなんでしょうか?

うーん……答えは出ないと思っています。もっと「わからないこと」に気がつきたいんです。こんなにわからないことが世の中にいっぱいあるんだ、と。一瞬わかったような気がしても、スタッフの方と話すと全然違ったりします。「こうだったかもね」とか「もしかしたらこうなのかな」とちょっとだけ投げかけられるんですけど、考えさせられることは多々ありますね。ボランティアでの経験は、私にとって宝物です。社会人になってからその体験や、スタッフさんたちからの言葉が枯渇すると、それが聞きたくてまたボランティアに参加しました。宝箱をまたちょっと覗いて元気をもらうような感じですかね。

 

 

2014/5/17
Text:四街道ふみ
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業