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「自閉症カンファレンス NIPPON 2014」参加報告 2日目

「自閉症カンファレンス NIPPON 2014」参加報告2日目

自閉症カンフェレンスの2日目です。午前中は「わが子にとってのTEACCHプログラム」と題して、ASDの子供さんを持つ三人の保護者の方々の生の声を聞きました。ここまでは専門家や研究者の意見を聞いてきたので、ASDのまさに現場にいる人たちの声を聴けるという意味で楽しみでした。

現在小5、中2、そして地域のケーキ屋さんで働く24歳の青年の三人のケース。今回はTEACCHという療育方法を採用している方々が多かったのですが、それぞれその手法に出会うまでの悩み、孤立感、苦闘について語っていました。そして、保護者としての期待をこめて「こうなってほしい」という保護者側がしたい支援ではなく、自閉症スペクトラム(ASD)を持つ子供たちが必要としている支援は何かを考えることの大切さが強調されていたように思います。

ASDと診断されたのが4月だったので、地域の療育施設はすでに年度として制度上受け入れられないので、翌年まで待たされたといったケースもあったとのこと。診断されても実質的なサポートもないまま試行錯誤で子供さんと関わったというご苦労も話されました。

保護者側からみて、ASDの人たちの支援に携わる方々に何を期待するか?それは、もちろん具体的なスキルのみならず、「ASDはこういうもの!」と決め付けるのではなく、柔軟にかかわりを持てる力。そして、何より相手を「困った人」としてではなく、ひとりの「人」としてかかわり、純粋にその人が楽しめるためにはどうしたらいいかをトコトン考え実行することのできる力。といったことがあげられました。

 

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2日目の午後は「青年期と成人の自立に向けて - 家庭や地域でできること」と題して、ノースカロライナ大学TEACCH部セラピストのキャシー・ハーシー氏の講演。ASDの子供たちが成長した後、自立した生活を家庭や地域で送るためにできること、準備すること、支援者がしなければならないことについての話しでした。

学校や家庭とは違う環境に出て行く中で、社会性を身につけるのは健常者も同じ。でも、その社会性が求められる場所で様々なハードルをすでに自分の中に抱えているのがASDの子供たち。TEACCHのプログラムでは、教室や家の中で「構造化」と呼ばれる手法を使い、ASDの特性を活かした家具の置き方や課題への取り組み方を習得していきます。でも、一歩外の環境に出て、それまで接したことのない人と「かかわりを持つ」ことはたくさんのチャレンジがあります。そして、楽しさを実感する可能性も秘めているし、また自立に向けてのステップにもつながります。

それだけに、その為の準備をどれだけ段取りよく、「戦略的」にできるかということが重要のようです。準備して失敗しても、それを評価して次の計画につなげて実施を継続する。地道な歩みであるにしても、それを避けてはASDの子供たちの自立はないのだと思いました。

 

このコンフェレンスの最後に参加したセッションは、TEACCHのディレクターであるゲーリー・メジボフ氏による「TEACCHプログラムのコアバリュー2014」。

どの卓越した企業も、ミッション、ビジョンと同時に「コアバリュー」、大切にしたい価値基準といったものを備えています。ASDの子供たちの支援を40年近く関わってきたメジボフ氏は、あえてその技術的なことではなく、「人とのかかわりと自立」を目指して日々悩みながらASDと向き合う本人とその家族、周りの支援者、教育関係者すべての「動機付け」の原動力となるバリューについて90分語り続けたのが印象的でした。

「自閉症を理解すること」「常に最高を目指すこと」「必要なことを実施すること」「協力と協働」「正直であること」「状況を肯定的にみること」など、まだまだ他にもたくさんコアバリューがあげられましたが、どれもがそもそも「人として生き、働く」上で大切な価値観が反映されているものばかり。当たり前と言えば当たり前ということのリストではあっても、これを常にメジボフ氏がリーダーとして「更新し続ける」ことに情熱を持っていることが伝わってきました。理念を決めてただそれを唱えるだけではなく、日々成長し学び続ける謙虚さ、といったものがにじみ出ていました。

ということで、すべてのセッション終了後にメジボフ氏に直接挨拶に行きました。本当に気さくで謙虚なおじさんという感じ。この人だからこそ、ASDに悩む多くの人にとって救いとなるようなTEACCHというプログラムの開発を続けてこられたのだと感じました。

 

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今回のカンフェレンスだけではないでしょうが、ASDに関係する人にとっての大きなテーマは、そもそも社会性やコミュニケーションといった面で困難を抱えるASDの子供たちが、どう他者と「かかわり」を持ち続けていけるか、ということです。

でも、これってASDがあるなしにかかわらず、「人として」大事なことじゃないでしょうか。もう一度カンフェレンスのレジュメなどを読み返すと、確かにASDの特性を反映した教材や、教室の間取りについてなど、かなり特殊なものはありますが、それもある意味で健常と言われている子供たちにも有効なんじゃないかというものもたくさんあります。この境ってあるんだろうか?まだ自分にもよくわかりませんし、福祉専門の人間でもないので、これを読まれた皆さんからのご意見も伺いたいです。

いずれにせよ、この「障害ある人vs 健常者」という狭間を行ったりきたりしながら、「両育わーるど」は成長していくのかな、とふと思ったわけです。

 

 

14/8/24 自閉症カンファレンス2014
text by 森田(両育わーるど 理事)
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業