【6ページ】 #特集 RDワーカーの可能性 皆さんは難病者と聞いたとき、どのようにイメージしますか? 難病者は働くのが難しいと思うでしょうか。難病者が社会参加し働けるかどうかは、自身の体調・医療的な側面と、社会や職場の法制度・人々の認識・テクノロジーなどを含む環境面の側面とがあわさって、その可能性が広がります。 医療技術の進歩により適切な治療や自己管理によって病状が安定できるようになってきたこと、平成 27 年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が施行され就労支援の制度が拡充してきたこと、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包摂)の概念が企業に広まり、見えにくい多様性の一部として難病者が認識され始めてきたこと、価値観の変化やコロナ禍を経てテレワークやフレックスタイム制など場所や時間に縛られない多様な働き方が普及してきたことなどから、近年、難病を抱えながらも積極的に社会参加し働くことを選択する人たちが増えています。 しかし、依然として難病者が働ける存在だという認識や理解は低い状態にあり、就労や社会参加についての議論はまだ始まったばかりです。 そこで私たちは、社会参加したい、働きたい、少しの柔軟性があれば働ける難病者の存在を社会に伝え、難病と就労を取り巻く諸課題が進展することを目指して、難病の当事者・支援者、医療者・コピーライター・地方議員などの有志メンバーが集まり、それぞれの想いをもとに半年間の議論を重ね、「RDワーカー」という言葉を創りました。 ##RDワーカーとは RD ワーカー=Rare Disease Worker の略です。 「RD」は、2008 年からスウェーデンで始まったRDD(Rare Disease Day 世界希少・難治性疾患の日)に由来しています。Rare Disease は英語では「希少疾患」を指しますが、私たちが提唱するRDワーカーには、Intractable Disease(難病)、Chronic Disease(慢性疾患)も含み、指定難病や本白書独自定義の難治性慢性疾患の人々も含みます。 RD ワーカーとは、そのような難病と共に働いている、働こうとしている人たちのことです。 ##RDワーカーと3つのRare また、RD ワーカーの「Rare」の言葉には、支援制度が少ない・社会の認知が少ない・働く選択肢が少ないという、3つの「Rare」を抱えているという意味も込めています。 ##RDワーカーの症状変動と勤務時間の3タイプ 難病にはさまざまな病気があり症状も個別性がありますが、私たちは病状の変動と勤務時間に着目しました。「その人がどのくらいの時間であれば、安定して働き続けられるのか」を手掛かりに、「ゆるゆる変動」「そこそこ変動」「せかせか変動」の 3つの就業タイプに整理しました。(図1) どのタイプに当てはまるのかRDワーカー自身が知ることにより、体調悪化を防ぎ、無理なく仕事を始めたり続けていくための第一歩となり、自分らしい「働き方の選択」につながります。企業など雇用者もタイプを把握することで、まかせる仕事のイメージが持てたり、病状理解を深めるきっかけとなり、雇用の不安が軽減できます。 (図1)RDワーカーの症状変動と勤務時間の3タイプ ・ゆるゆる変動タイプ(数週間~年単位)〔大きな波の絵〕 症状の変動は、数週間から数カ月単位など、体調変動が緩やかで、比較的安定して働けるケースが多い 働き方のヒントは、過重労働や過度なストレスは避けたいが、フルタイム勤務も可能(フルタイム可、フレックス) ・そこそこ変動タイプ(2~3日から1週間単位)〔中くらいの波の絵〕 数日単位で体調が波のように上下しやすい 働き方のヒントは、体調を安定させるために、基本的に半日勤務など時短勤務が望ましい(時短勤務、フレックス) ・せかせか変動タイプ(日内変動)〔小刻みな波の絵〕 1日の中でも体調の変動が大きい 働き方のヒントは、基本的に体調は良くないが、可能ならタイミングを見て働きたい(超短時間、スーパーフレックス) ※同じ難病でも人により症状や症状変動は異なり、同じ人でも治療状況などによりタイプも変動します。 ##RDワーカーの可能性 私たちは、RD ワーカーという存在は、単に支援される存在という意味合いを超え、誰もが働きやすい組織や社会を創り出す「先駆者」となる可能性のある存在だと考えています。 難病といっても、その病状や進行度、治療法は個々人で異なります。同じ病名でも、できることやできないこと、必要な配慮は千差万別です。この一人ひとりによる違いこそがカテゴライズでひとくくりにできない多様性そのものです。 難病者の就業機会や社会参加を進めることは、社会で眠っている潜在労働力の活用につながるだけでなく、多様な働き方の推進、企業の組織風土の改善や多様な価値を取り入れるDEI経営の実現にも貢献します。(図2) 実際に、超短時間勤務や在宅を取り入れたハイブリッド勤務を進めたり、合理的配慮を前提としたフルタイム勤務を認めるなど、柔軟な働き方を実現し、難病者の人材活用が全社会的な働き方改革とセットで進むケースが生まれてきています。 RD ワーカーが活躍する社会は、難病者だけでなく、誰もが働きやすい社会へとつながります。RD ワーカーは、一人ひとりが持つ多様性が尊重され、誰もが生活しやすい社会を創る、可能性に満ちた存在なのです。 図2:RDワーカーから生まれる新しいR〔3つの丸の図〕 ・人材確保 Retain Staff ・働き方改革 Re formation ・社会の再構築 Re construction