【44ページ】 ##1 今回の調査から見えてきたこと   ###難病者の就労・社会参加に関する調査報告書要旨   本調査は、「難病者の社会参加を考える研究会」が、働きたい難病者が安心して働き、社会の一員として活躍できる環境づくりを目指し、現状と課題を明らかにすることを目的に実施しました。調査は、難病者、企業、地方自治体、地方議員の四者を対象とし、それぞれの立場から見た実態や考えを聞きました。 各調査の目的と主な結果は、以下の通りです。     ###1.難病当事者調査 就労率・環境・配慮ニーズの全体像 年収200万円未満が最多。理想と現状に隔たり 調査の結果、回答者の就業率は64.6%で、正社員・契約社員が44.2%を占めます。年収は「200万円未満」が最も多く、41.4%でした。 理想とする働き方と現状には隔たりがあり、体調の変動に応じた柔軟な勤務時間や裁量労働が求められていることが分かりました。 求職時、就業時、休職時を通じて、「難病への理解」「勤務地や就業環境」「休暇・通院等への配慮」が重視されていることが明らかになりました。 進行性の難病者は、就業率が低く、休職経験が多い傾向が見られました。 自身の病状を職場に開示することについては、多くの方が求職時に開示していましたが、62.8%が「開示による何らかの不利益」を経験していました。現在就業中の方でも、職場で不利益を感じたことがある方が半数を超えていました。 幸福度については、研究会が注目した特定の四疾患群では、全体と比較して社会的幸福度が低い傾向がありました。一方で、外見上、配慮が必要であることが伝わりやすい方は、周囲の理解や配慮を得やすく、幸福度が比較的高い傾向が見られました。 ###2.企業調査 雇用率・課題・受け入れ体制の全体像 企業の柔軟な対応や多様性推進は、難病者雇用にもつながる 調査の結果、難病者を雇用している企業は全体の約3割(33%)にとどまり、多くの企業で障害者雇用が進んでいる一方で、難病者の雇用は依然として進みにくい状況が見られました。従業員規模100人以上の企業が多数を占める中でも、難病者雇用は限定的であり、制度の不明確さや業務設計の難しさが課題となっている可能性が見受けられました。一方、実際に難病者を雇用している企業では、個別の状況に応じた柔軟な配属や勤務調整が行われていました。 企業の難病に対する理解については、約6割が「指定難病以外の難病」の存在を認識しているものの、全体的には理解が十分とは言えず、「受け入れ体制がない」「過去に前例がない」といった理由から採用に消極的な傾向が見られました。また、法定雇用率に難病者が含まれるとしても、採用意欲が明確でない企業が過半数を超えています。約7割は「難病者雇用には法改正が必要」と考えており、法定雇用率だけではなく、受け入れ体制の整備や難病理解の促進などの追加的な支援が重要であることが示されました。多くの企業はテレワークや通院休暇、成果主義評価、多様性推進といった取り組みに一定の対応可能性を示しており、難病者雇用にも柔軟に対応する余地があることが分かりました。 情報開示については、上司や人事には比較的詳細な情報が共有される一方で、職場全体への共有は限定的でした。企業の約半数は心理的安全性の確保に取り組んでいるものの、当事者は「開示による不利益」への不安を抱えており、今後は安心して開示できる仕組み(匿名相談や開示支援ツールなど)の導入が求められます ###3.地方議員調査 意識・課題・政策対応の実態 難病者の実態が見えにくいことが、議案化の妨げに 調査の結果、難病については「根治が難しく、多くは慢性化すること」や「症状に波があり、体調の予測が難しいこと」が比較的よく知られていました。一方で、「難病者は推計700万人以上にのぼること」については十分に認知されていませんでした。「難病法による定義」や「制度の狭間で公的支援が受けられない難病者がいること」「指定難病以外にも多くの難病が存在すること」については、多くの議員が認識していたものの、約3割は非認知または誤認している状況でした。 難病者の就労支援の必要性は広く認識されており、約7割の議員が、議会で関連施策を取り上げたいと考えていました。ただし、議案化に積極的でない議員の主な理由として、「実態把握に時間がかかり、現状の理解が不十分であること」が挙げられ、難病者の実態が見えにくいことが課題となっていました。 山梨県で実施されている難病者対象の採用枠については、85%の議員が「よい施策である」と評価し、82%が「所属自治体でも取り組むべきである」と考えていました。 難病者の雇用支援を今後具体的に進めていくためには、まずは実態を正確に把握し、当事者や関係者の声を聴くことが重要であるとの認識が示されました。 ###4.地方自治体 調査雇用率・支援体制・課題の包括分析 難病者雇用は福祉的な支援とみなされる傾向 法的・財政的・人的支援の不足が雇用拡大の壁 調査の結果、難病者を雇用している自治体は約6割(57%)に留まり、特に小規模自治体での実績が少なく、雇用の広がりが課題です。雇用形態は74%が「常勤のみ」で、柔軟な雇用は大規模自治体に限られていました。 指定難病以外の難病や、制度の狭間にある難病者への認知度は約半数に留まり、自治体の基本計画で難病に言及があっても、指定難病以外を支援対象とするのは約4割、独自の支援策を実施するのは2割に過ぎず、政策としての定着は進むものの、実効的な支援は限定的です。 加えて、「難病者雇用は、福祉的な支援」と見なされる傾向が強く、戦力としての視点が乏しい状況にあることが分かりました。社会参加の必要性は認識されつつも、法的・財政的支援の不足やサポート要員配置の困難さが雇用拡大を阻む要因となっています。 柔軟な勤務時間や就労中のヘルパー利用は難しいとされていますが、テレワークやIT・AIツールの活用は難病者雇用を推進する有効な手段として期待されています。 結果として、難病者雇用は、組織的な余力のある大規模自治体が中心となっていますが、全国的な難病者雇用の推進には、小規模自治体での採用拡大が必須であり、そのためには「障害者法定雇用枠への難病者の加算」や「柔軟な働き方への制度的支援」「設備改修への補助」など、地方自治体が安心して取り組める環境の整備が求められています。   これらの調査結果は、難病者が自分らしく働ける社会を実現するためには、難病への正しい理解促進、安心して自己を開示できる職場環境の整備、そして国と地方自治体が一体となった制度的・財政的支援の強化が不可欠であることを示唆しています。各施策の実行により、難病者自身の就労継続や社会参画が促進されるだけでなく、組織全体にも多様性と包摂性がもたらされ、働く場の質と生産性の向上につながることが期待されます。