【46ページ】 ##2 当事者編 ###調査の背景 本調査は、難病を抱える当事者の就労や働き方に関する実態や意識を明らかにし、今後の制度的・社会的支援のあり方を検討するための基礎資料とすることを目的として実施しました。 全国の難病者を対象に、 ・現在どのような雇用形態や職場環境で働いているのか(雇用状況・職場での配慮など) ・働くうえで困っていることや、就労継続のために必要と感じている支援は何か ・病気や症状を職場で伝えることの難しさや、安心して働くために必要な環境とは何か といった視点から回答をいただき、当事者の経験に基づいた多様な声を集めることができました。 本レポートが、難病のある方々が日々直面している課題と、それに対する工夫や希望を通じて、制度設計や職場環境の改善に向けた一助となれば幸いです。 ###主な調査結果 調査目的 全国の難病者の病態、開示と幸福度、制度利用や就業状況を把握し、今後の支援制度や雇用促進に向けた課題や方向性を明らかにする。 調査地域 全国 調査対象 難病者 調査方法 Web 調査 サンプル数 353(有効回答) 調査期間 2024 年11 月25 日(月)~2025 年3 月17 日(月) 調査主体 難病者の社会参加を考える研究会 実査管理 NPO 法人両育わーるど   ###回答者プロフィール 性/年齢/居住地 ・性別では男女比が1:2。 ・年齢は40前後(28%が最も多く、次いで50代(25.8%)。 ・居住地は関東・北陸・甲信越が中心(53.5%)。 ###主たる疾患 ・主として悩んでいる疾患を集計。指定難病に該当する人は53%。 ・当研究会が注目する四疾患(線維筋痛症、ME/CFS、脊髄液減少症、化学物質過敏症)罹患者は23%。 ・主たる疾患以外にもその他の疾患がある人が36.5%。 ・前回に比べて一次性ネフローゼ症候群患者の割合が大きく増加している(3.6%→8.8%)。その他、前回調査と若干回答者の主たる疾患が異なる点には注意が必要。 ###疾患発症年齢/進行状況/通院頻度/障害者手帳有無/指定難病受給者証有無 ・疾患発症年齢は20歳前後が25.6%で最も多い。 ・症状は「慢性化」45.6%、進行性28.6%、寛解20.7%。 ・通院頻度は「2~3ヶ月に1回以上」が45.9%で最も多い。 ・障害者手帳所有35.1%、指定難病受給者証所有63.7%。いずれも非所有21.8%。 ###雇用形態/年収/就労状況/企業選定基準 ・現在就業者で「正社員・契約社員等」は44.2%。 ・年収は「200万未満」が最も多く41.4%。 ・現時点の就労状況については、「就職活動中」が12.2%、「就業中」が64.6%、「休職中」が23.2%。 ・企業の選定基準について、求職時・就業時・休職時関わらず、「難病への理解」「勤務地・就業環境」「休暇・通院等への配慮」が望まれていた。逆に、「社会保険等への加入有無」は相対的に少なかった。これは、RDワーカーのタイプを想定していない現在の社会保障では、十分に難病者を誘引できないことを示唆している。 ・企業選定基準について、「給与・待遇」の重要度は相対的に低いが、「就業時」に増加する傾向がある。これは就業していない状況だと、給与や待遇よりもまずは働けることを重視しているが、実際に就業し始めるとそこに不満が生じてしまうことを示唆している。 ###直近の就業と望ましい就業の乖離 ・直近の就業状況としては、「固定またはシフトで40時間以上」が最多の29.2%だが、以下の就業方法が特に望まれており、私たちが提唱するRDワーカーの3つの就業タイプと概ね合致する。理想と現実に乖離がある。 ・ゆるゆる変動タイプ:固定またはシフトで、20~40時間勤務(17.9%)。 体調変動の波がゆるやかで、シフトやフルタイムも可能なグループ。ただし、就業時間は現状よりもやや短めが望まれている。 ・そこそこ変動タイプ:裁量またはフレックスで、20~40時間勤務(17.9%) 体調変動が数日単位で、時短やフレックスが望ましいグループ。 ・せかせか変動タイプ:短時間労働・ショートタイムワークで、10~20時間勤務(17.3%) 1日の中で体調変動があり、症状のタイミングをみて就労したいグループ。    ・RDワーカーのタイプに関わらず、「固定またはシフトで40時間以上」勤務が最多になっている背景には、就業時間が短いと社会保障が受けられないことなどが関係していると考えられる。 ・進行状況別でみると、「慢性化」「進行性」ともにショートタイムワークのニーズが強いことがわかる。また、「寛解」の人であっても、「裁量またはフレックス」や、もう少し時間の短い「固定またはシフト」を望んでいる。 ###雇用形態/年収/直近の就業と望ましい就業の乖離 ・回答者全体における就業状況について、「求職中」が12.2%、「就業中」が64.6%、休職中が23.2%と、就業中の人が多い傾向が見られた。企業に求めるものとして「給与・待遇」を1位または2位に選んでいた人数は、求職中では18.6%に留まるが、就業者の中では46.5%と高くなる傾向がある。求職中はとにかく仕事に就くことを重視しており、就業してからは現実的な問題として給与や待遇も必要と認識していると思われる。 ・本研究会が注目している四疾患に絞って同様に結果を見ると、「求職中」は16.9%と大きな違いがないが、「就業中」が43.1%、「休職中」が40.0%と、就業率の減少・休職率の増加が見られる。また、「求職中」の時点から全体に比べて給与・待遇を重視する人が10%弱多いことや、「就業中」においては逆に全体に比べて給与・待遇を重視する人が10%弱少ない傾向が見られた。 ・障害者手帳保有者は、全体に比べて、求職中の人が若干少なく、休職中の人がやや多い傾向が見られた。 ・受給者証保有者は、全体に比べて「求職中」において、「給与・待遇」を重視する割合が低い傾向が見られた。 ・障害者手帳も受給者証も保有しない人は、「休職中」において「給与・待遇」を重視する人の割合が低い傾向が見られた。 ・病気の進行状況について、「慢性化」「進行性」「寛解」それぞれの就業率に大きな違いがあった。「慢性化」は全体と近しい傾向があり、「進行性」は就業率が低めで休職率が高い傾向、「寛解」は就業率が8割近くあり、求職中も休職中も少ない傾向。 ###雇用形態/年収/直近の就業と望ましい就業の乖離 ・回答者全体の平均年収は290.5万円程度であった。 ・四疾患患者に限定すると250万円程度で全体平均よりも40万円ほど少ない水準である。 ・全体平均と比べると、障害者手帳保有者の平均年収は40万円程度低い。逆に、障害者手帳も受給者証も保有していない人の年収が317.3万円と高い水準である。 ・病気の進行状況を切り口にすると、「寛解」の回答者が圧倒的に平均年収が高い(348.6万円)。一方で、「慢性化」と「進行性」については、275万円程度と同水準の平均年収である。 ・「給与・待遇」を重視している回答者は、それ以外の回答者よりも、80万円以上も平均年収が高い。 ###求職時の疾患開示/疾患開示による不利益 体調悪化要因/体調回復方法 ・求職時に疾患を開示する人が大多数であるが、その多く(62.8%)は、疾患開示によるなんらかの不利益を経験している。 ・体調悪化要因は「業務量・拘束時間過多」が最多。続いて「人間関係・コミュニケーション」「通勤・移動」。当研究会が注目する四疾患の患者に限定した場合、「業務量・拘束時間過多」が最大である点は変わらないが、「気圧変動や騒音等の環境的な要因」や「通勤・移動」の影響が顕著に増加する。 ・体調回復方法については「仮眠・休憩」が最多。続いて「投薬等」「就業時間の短縮等」。四疾患患者に限定すると、これらの施策への取組を総じてさらに高い割合で実行していることがわかる。 ###【現在就業者】 働き方満足度/職場への貢献/導入を望む制度 ・現状の働き方の満足度は10点満点中「8点」が最も多い(21.9%) ・職場に貢献できていると思う人が最も多い(68.4%) ・就労しやすさのために導入を望む制度として最も多いのは「通院・病気休暇」(58.3%)。次いで、「在宅勤務」「仕事と病気のことで相談できる仕組み」が多い。 ###【現在就業者】 働き方満足度/職場への貢献/導入を望む制度 ・現在就業している人で職場で不利益を感じたことがある人は半数以上(56.6%)。 ・ALS・パーキンソン病・筋ジストロフィーなど、進行状況により外見上配慮の必要性が伝わりやすい人に限定すると、不利益を感じることが少ない傾向がある。 ・不利益の内容で最多は「上長が症状への理解がなかった」(32.0%)。次いで、「周りから陰口があった」(18.9%)「病気を理由に能力に合わない業務を振り分けられた」(16.2%)が多い。 ###【未就業・休職中】就業していない理由/雇用ハードルを下げる要因 ・現在未就業・休職中の人が就業していない理由は、「痛みや疲労」「症状に波があり、コントロールできない」が最も多い(67.1%)。次いで、「自身の症状に合った仕事や働き方が中々見つからない」が続く(56.1%)。 ・当研究会が注目する四疾患の患者に限定した場合、「痛みや疲労」「症状に波があり、コントロールができない」が90%以上となっており、これらが就労の大きな妨げになっていることがわかる。 ・症状の進行状況別でみたとき、慢性化している人については「通勤が困難」がやや高い傾向があるが概ね全体傾向と一致している。進行性の人は、「痛みや疲労」が高い傾向。 ・雇用ハードルを下げる要因としては、「障害者雇用に関する法律の改正」(53.7%)、「トライアル雇用等、難病者を雇用しやすい制度(52.4%)がより多く望まれている。 ###自由な働き方の浸透で障害者雇用のハードルは下がるか/疾患へのコンプレックス/その解消のためには ・自身の症状等に関する説明の困難さを感じている人が多い(60.6%)。一方で、ALS・パーキンソン病・筋ジストロフィーなど、進行状況により外見上配慮の必要性が伝わりやすい人に限ると、相対的に説明の困難さを感じていない(36.4%) ・理解してもらうために職場に対しておこなっている働きかけとしては、「面接時に口頭、または文章を渡して説明している」(44.2%)、「入社後、直属の上司に口頭、または文章を渡して説明している」(40.5%)が多い。 ・説明に役立つものとして、「病状説明に役立つツールの活用」(59.5%)、「病状を正確に理解するためのサポート」(53.0%)が多く挙げられていた。 ###難病者の幸福感(全体傾向) ・Mental Health Continuum Short Form日本語版 (MHC-SF-J)による幸福度調査によると、全体的な幸福度は難病者全体としては低い傾向であった。特に社会的幸福度が顕著に低く、45.3%もの難病者が最も低いスコアとなっている。 ・当研究会が注目している四疾患については、全体よりもさらに社会的幸福度が低い傾向が見られた。 ・一方で、ALS・パーキンソン病・筋ジストロフィーなど、進行状況により外見上配慮の必要性が伝わりやすい人に限ると、いずれの幸福度も相対的に高い傾向が見られた。病気であることが周りにも伝わりやすいことで、理解や配慮が得られやすいことが影響しえいると考えられる。 ###難病者の幸福感(症状の進行状況ごと) ・病状の進行状況を慢性化・進行性・寛解の3つに分類し、それぞれごとに幸福度を集計した。 ・総合的幸福感としては、「進行性」の難病者が最も低かった。進行性の難病者は、感情的な満足感が特に低い傾向が見られた。 ・「慢性化」の難病者は、他の進行状況の難病者に比べて、「感情的な満足度」が高かった。 ・「寛解」の難病者は、他の進行状況の難病者に比べて、「社会との繋がり」「心理的な健康」が高かった。 ###難病者の幸福感(障害者手帳・受給者証の有無) ・障害者手帳および受給者証の保有状況ごとに幸福度を集計した。 ・障害者手帳も受給者証もいずれも保持していない人について社会的な幸福度が顕著に低い傾向が見られた。 ・受給者証を保持している人は、心理的な幸福度が若干高い傾向があった。 ###難病者の幸福感(病気の開示有無) ・病気の開示有無ごとに幸福度を集計した。 ・「感情的な満足感」については、それほど大きな差異が無いが、「社会との繋がり」および「心理的な健康」において、病名非開示の患者が著しく低い傾向があった。 ###幸福感ヒートマップ(属性・症状の進行・通院頻度・病名) ・幸福度と属性・症状の進行・通院頻度・病名の相関を簡易にヒートマップ化した。(青が正の相関、赤が負の相関、色が濃いほど高い相関) ・属性については、年齢が高くなるほど感情的幸福度を中心に低くなる傾向があった。また、女性の方が社会的幸福度が低い傾向が見られた。 ・症状の進行については、進行性の難病者の幸福度が低い傾向があった。特に感情的幸福度についてその傾向が顕著である。 ・通院頻度については、中頻度程度が最も幸福度が低い傾向が見られた。低頻度・不定期でそもそも通院負担が少ない人や、週に1-2回など日常的に通院する人に比べて、却って負担感が大きいものと考えられる。 ・前回調査から患者数・回答数が少なかった疾患の「その他」に分類される人の幸福度が最も低い傾向。一方で、ALSなど幸福度が相対的に高い病気が見られる。SLE、クローン病、潰瘍性大腸炎など、治療の選択肢が増えてきている病気の幸福度がやや高い。