【64ページ】 ##企業編 ###調査の背景と概要 本調査は、企業における難病者の就労促進に向けた現状と課題を把握し、今後の社会的・制度的支援のあり方を検討するための知見を得ることを目的として実施したものです。 具体的には、全国の人事、労務、経営企画などに関わる企業関係者を対象に ・現在、難病者はどのように雇用され、どのような支援が行われているか(雇用状況、配慮内容、課題) 難病者の雇用をどのように捉えているか(意義、経営課題としての認識) ・就労上の配慮や制度導入において何が実現可能で、何が難しいとされているか といった点について問い、企業現場での実情と意識の傾向、施策推進の壁などについて、多くの重要な示唆を得ました。 本レポートが、誰もが意欲と能力に応じて働き続けられる職場環境の整備と、民間における難病者雇用の前進に向けた一助となれば幸いです。 ###調査概要 調査目的:全国の企業における難病者の雇用の実態と対応状況を把握し、今後の雇用促進に向けた課題や方向性を明らかにする。 調査地域:全国 調査対象:民間企業・団体において人事、労務、ダイバーシティ推進、経営企画等に関わる関係者 調査方法:Web調査 サンプル数:54(有効回答) ※「難病者の社会参加を考える研究会」の活動を未認識の回答者を4割以上(24件・45.3%)含む 調査期間:2024年12月6日(金)~2025年2月28日(金) 調査主体:難病者の社会参加を考える研究会 実査管理:NPO法人両育わーるど ###企業における難病者雇用の実態 難病者を雇用している企業は全体の約3割(33%)にとどまっており、障害者をすでに雇用している企業が9割近く存在するにもかかわらず、難病者の雇用には依然として壁があることが示された。特に、従業員規模100人以上の企業が約7割を占める中で、一定の人的・制度的リソースを持ちながらも、難病者雇用への展開は限定的である。これは、制度上の定義のあいまいさや、業務設計・配慮の難しさが要因となっている可能性がある。 一方で、実際に難病者を雇用している企業では、配属先の選定において柔軟な対応がなされており、個々の病状や希望に応じた調整が行われている。 ###企業における難病に対する理解と意識 調査対象企業の約6割(61%)は、「指定難病に該当しない難病があること」を認識しているものの、全体としてはまだ十分に浸透しているとは言い難い。特に、難病については「治療法が確立していない」「長期療養が必要」「原因が不明である」といった漠然とした理解が強く、雇用場面において実務的な対応のイメージが持てていないと思われる企業も少なくない。実際に難病者を採用しない理由としては、「社内に受け入れ体制がない」「過去の前例がない」が上位に挙げられており、制度や支援の不在よりも“備えのなさ”がハードルとなっている。また、法定雇用率に難病者が含まれるとしても、採用意欲が明確でない企業が半数を超えている。一方で、難病者雇用のためには法改正が必要と考えている企業が7割強存在するため、法定雇用率だけでなく、難病者受け入れ体制の整備や難病理解の促進などの追加的な支援も必要と思われる。 一方で、テレワークや通院休暇、成果主義評価、多様性推進、社内啓発など、多くの企業が一定の対応可能性を示しており、難病者雇用においても工夫次第で実現できる余地は広がっている。就労中のヘルパー利用や試験的雇用といった高度な配慮には消極的な声もあるが、全体としては「状況次第で対応可能」とする回答が多数を占め、柔軟性の拡充余地はあるといえる。 情報開示については、上司や人事には病名や配慮事項を含めた比較的詳細な情報が共有されている一方で、所属部署や全社に対しては共有範囲が限定的であり、配慮事項のみにとどまる傾向が強い。企業は「必要な情報は得られている」と認識しているが、当事者側では「開示による不利益」や「職場内での扱いの変化」への不安が根強く、開示をためらう空気が存在する(難病当事者調査より)。企業の約半数が「心理的安全性の確保」や「多様性の受け入れ推進」を実施している結果も踏まえると、今後は安心して開示できる文化・仕組づくり(匿名相談ツールや開示支援のためのテンプレートなど)の導入が、実効的な支援施策として求められる。 ###対象者プロフィール 全エリアから54名の協力を得た。 ・企業所在地域は、実際の人口構成比と比較して関東・北陸・甲信越が圧倒的に多い。 ・所属部署は「人事関連(44.4%)」が多く、経営層や総務関連からの回答もあり。 ・役職は「担当」「チームリーダー・係長級」が多く、現場寄りの意見が集まった。 ※実比率数値は総務省 令和6年(2024年)1月1日現在「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」より ###対象者プロフィール 全エリアから54名の協力を得た。 ・業種は「IT・通信」「公共・医療」「サービス業」が多い。 ・企業規模は「500人以上」「100人以上500人未満」の比較的大きな企業中心。 ###難病者の現状に関する認知 難病そのもののイメージや該当要件については、総じて正しく理解されている。 ・誤解されがちなイメージ「命にかかわる」「一度罹ると寛解・治癒しない」「就労・進学が難しくなる」との回答は比較的少数(30-40%の範囲)。 ・指定難病該当要件も7割近くは認知されており、「ほとんど知らなかった」との回答は31.5%に留まる。 ・指定難病に含まれない難病もあることについての認知はやや低め(61.1%)。 ###障害者雇用の現状 障害者雇用義務のある企業が大半(88.9%)であり、実際に雇用もしている。 ・88.9%が障害者雇用義務のある企業。87%の企業で実際に雇用もしている。 ・雇用の目的は「中立」が最多であるが、「法定雇用率の達成」主眼がやや多い。 ###障害者雇用の理解 「障害者雇用促進法」と「障害者総合支援法」の理解度に差がある。 ・「障害者雇用促進法」の対象条件はほぼ理解されている。 ・「障害者総合支援法」の対象条件の理解度がまだ低い。 ※指定難病受給証や厚労省が定める疾患の診断書が該当することの認知度が低い ###難病者雇用の現状 障害者に比べると難病者の雇用は進んでおらず、雇用推進にも慎重。 ・「雇用していない(29.6%)」「把握していない(33.3%)」企業が多い。 ・難病者が障害者の法定雇用率に算入されたら、採用したいかという問いに対して積極的に採用したいと回答した企業は40.7%に留まる。 ・回答数が少ないが、採用できない理由として最も多かったのは「受け入れ体制が整っていないため(8件)」であり、障害者雇用体制以外の準備ができない・できていないと考える企業が多いことが伺える。 ###難病者雇用の現状 難病者の配属先は比較的柔軟で、関係者への情報開示も適宜実施されている。 ・難病者の配属先は状況に応じて柔軟に対応しているとの回答が過半数(51.5%) ・上司や人事に対しては、病名も含め必要な情報を伝達していることがほとんど。 ・所属部署に対しては、配慮事項については伝えていることが多いが、病名や症状については上司ほどは共有されていない。 ・全社に対しては、病名・病状についてはほぼ共有されておらず、各種配慮事項も限定的な情報伝達となっている ###難病者による情報開示・業務評価基準 難病者が情報開示しやすい環境になっていると判断している企業関係者が多い。 ・難病者が情報開示しやすい環境・雰囲気になっていると判断している企業関係者が半数程度(48.5%) ・情報開示の促進策としては多様性受入の推進と心理的安全性への配慮について半数以上の回答企業が実施 ・難病者に対する業務評価基準は、他の従業員と明確には区別されていない ###難病者の雇用促進 難病者の雇用促進には法改正が必要と考えている回答者が最も多い。 ・難病者雇用の促進には、法改正が必要と考えている回答者が大半(74.1%) ・社内サポート体制の構築(68.5%)や、社会的認知の向上(66.7%)も重要と捉えられている ・一方で、国による特例的な社会保障制度や助成金・補助金については40%強に留まった。 ###難病者の就労支援施策の実現性 難病者の就労支援施策としては下表のとおり実現可能性が評価されている。 ・社内啓発、心理的安全性の確保、外部専門機関との相談制度、経営課題への設定などについては、実施済または実施のポテンシャルが高いと評価されている。 ・就労中のヘルパー利用、体調に合わせた柔軟な勤務、試験的雇用などについて比較的ハードルが高いと評価されている。