【114ページ】 ##1 官民連携のあたらしい働き方作り~デジタル就労支援センターKAMAKURAの2年間~ デジタル就労支援センターKAMAKURA 管理責任者 鎌田 奈緒美 ###はじめに 働く意義は、社会の中で役割を持ち、互いに尊重しながら日々を送ることです。しかし、心身の状態によって働きたくても叶わない、長いこと学業や仕事から離れていて一歩を踏み出せない状態の人たちを、就労困難者1と呼んでいます。雇用されていない人たちでも潜在能力を最大化させ、顧客企業に貢献できる仕組みが、私たちのBPOプラットフォーム、NEXT HERO2です。 ###鎌倉モデル デジタル就労支援センターKAMAKURAは、VALT JAPAN株式会社が受託運営している鎌倉市の独自事業です。 福祉とビジネスを掛け合わせた1つのBPO事業者に近い位置づけで、シェアードサービスとしてNEXT HEROを活用しています(図1)。 図1 鎌倉市就労困難者特化型BPO事業モデル〔真中に「デジタル就労支援センターKAMAKURA」、その上に「鎌倉市」、真ん中左に「発注企業」、真ん中右に「2つの働き方、在宅型ワーカーと通所型ワーカー〕 2022年10月の開所から1年半で50名近いワーカーが登録するまでに成長しました。親しみを持って呼んでもらえるよう、「デジKAMA」と省略形を名乗っています。名称から就労継続支援事業所や就労移行支援事業所のような障害福祉サービスと思われがちですが、違います(表1)。 表1 デジKAMAと障害福祉サービスの比較 〔デジKAMAは、根拠は鎌倉市仕様書、目的は在宅・通所の就労による社会参加・自立の促進、対象は鎌倉市在住で就労に困難を抱える人、収入得られる、雇用契約なし、利用期限なし〕 〔就労継続支援A型・B型は、根拠は障害者総合支援法、目的は就労・生産活動への従事、主に一般企業などへの就労に結びつかなかったか現時点で困難な人、収入得られる、雇用契約A型あり・B型なし、利用期限なし〕 〔就労移行支援は、根拠は障害者総合支援法、目的は就労に必要な知識やスキルの獲得、対象は主に一般企業などへの就労を希望する人、収入原則得られない、雇用契約なし、原則2年間〕 ###登録できる人 対象者は鎌倉市民に限られます。2024年現在、医師によって障害が認められている人と、6か月以上ひきこもり状態にあって鎌倉市または関係機関の支援を受けている人の2類型です。中には、難病を抱えながらどちらかの類型に属する人もいます。 2024年11月現在、稼働しているワーカーの属性は障害3:ひきこもり1の割合です。障害種別は大多数の人が精神です。 ###働き方の特長 未経験でもパソコンの仕事ができる 未経験者歓迎の求人は軽作業や調理、清掃などが主流ですが、デジKAMAの仕事は企業から受託したIT業務です。たとえば、文章校正、データベース登録業務などです。インターネットにつながるパソコンがあれば、在宅でも働けます。一度も来所することなく稼働している在宅ワーカーもいます。話すのが苦手でもSlackでチャットができれば十分としており、電話やWeb会議、雑談の強要はありません。 ただし、作業進捗が確認できず連絡も取れない、マニュアルやスタッフの依頼に従わずに独断で進めるといったコミュニケーション不足は弊害が大きいため、特に在宅で働く人には密な報連相をお願いしています。   働き続けることで機会を得られる 個々に合った仕事を割り当てるには、過去の案件の種類、アウトプットの量や質、所要時間といった取り組み結果をスタッフが総合的に評価する必要があります。好きなときに好きなだけ働くのではなく、月・水・金 10-12時など各自が組んだ定期的なスケジュールで要員計画に入ってもらいます。 前もってわかっている休みの他、急な体調不良時でも一報さえ入れれば休んだり早退したりできます。不調のまま作業を続けることはパフォーマンスに影響するという考えから、正直に申告して休むことを良しとしています。目安として、1か月あたりの最大稼働可能時間(理論値)の8割を保てれば良く、下回る場合はスケジュールを見直すことを勧めています。 労働を新たに習慣づけられる 締結日から半年間有効、申し出がなければ3か月ごとに自動延長される業務委託契約(準委任)での就労です。1日2~3時間、週2~3日程度の稼働から始め、続けられる人を募集しています。たとえば就労継続支援A型事業所だと雇用されて週20時間以上働けることが条件ですが、デジKAMAでは最も多く働いている人でも週15~16時間です。時給は神奈川県の最低賃金に準じます。 案件とのマッチング以外でも、スタッフは作業安定度・作業遂行・基本的労働習慣・対人技能の4つの面からワーカーをアセスメントします。自他共に高い評価となった暁には、良い条件の雇用形態やフリーランスなどへとステップアップすることを勧めます。   ###見えてきた一人ひとりの姿 VALT JAPANのビジネスモデルの主流は、就労継続支援事業所に対して企業案件を再委託する、いわばBtoB(法人間取引)でした。取引をしている全国の事業所のケイパビリティデータは持っていたものの、事業所内の個々のワーカーのスキルや日常の姿はブラックボックス状態でした。デジKAMAはVALT JAPANの従業員が事業所に常駐して直接支援に携わる初めての試みです。社会福祉士や精神保健福祉士も新規に採用して配置しており、丁寧なモニタリングやアセスメントを通して多様なワーカーの働きやすさを追求しています。 ワーカーの傍で スタッフは個別化の原則〔バイスティックの7原則の1つ。クライエントをパターン化せず、??ひとりの?活の個別性を理解すること〕を徹底しています。たとえば、診断名は言ったほうが楽であれば言ってもらってよいですが、年齢、性別、性格、環境によって影響は異なります。必要な配慮を聞いたうえで、共に働く仲間として日々接しています(図3)。 図3 デジKAMAの「支援」方針〔リアルタイム:通所でも在宅でも稼働時間内は随時やりとり。All for one:ワーカーとスタッフは1:nの関係・属人化も予防。情報整理:作業シートや手順書を見失わない・忘れても探せる。対等主義:指示でなく依頼・機会提供する代わりにワーカーを頼る〕 卒業する人も留まる人もいます。定員がある事業なので、いずれ一般就労をしたいと希望する人を優先していますが、働いている内に当初の意気込みが感じられなくなる人もいます。このような声が聞かれます。   ・健康面の懸念が残る。季節の変わり目の影響も受けやすいので、焦らずに成功体験を積んでいきたい。 ・デジKAMAのスタッフと話すことは問題ないが、他の職場については求人情報から雰囲気などが読み取れず、不安が残る。 関係機関との連携 ワーカー、デジKAMA双方とつながりのある鎌倉市内の連携機関には、障害者二千人雇用センター、インクル相談室鎌倉、スリー・プラス、湘南・横浜若者サポートステーション、とらいむなどがあります。それぞれ、一般就労に向けた相談・就職活動の伴走、生活困窮者や若年無業者の自立の一環としての就労準備、日中活動の場の提供などを担当しています。ワーカーによっては、市の障害福祉課や生活福祉課、ハローワーク藤沢、就労移行支援事業所、通院先のクリニック、ご家族やその支援者などがついていることもあります(別?であれば、就労継続?援B型や就労移??援を併?することが鎌倉市から認められています。ただし、ワーカー本?が望んでいても、事業所の?針にそぐわない場合もあります)。   他の機関で相談したり学んだりしたワーカーにとっての分水嶺(ぶんすいれい)がデジKAMAです。勤怠や仕事の品質が安定し、自身のスキルで報酬を得られることがわかると、現状維持を選択するワーカーが出てきます。これは、スタッフから本人へ卒業を促すと仕事を失う恐怖が勝ってしまうためです。特にこうしたケースでは、各関係機関への情報提供等の連携を行うことで、デジKAMA卒業後の次のキャリアに向けたステップがより明確になります。ワーカーの気持ちは恐怖から目標に変わり、良き方向へと前進します。デジKAMAでの経験が評価されて一般就労が決まったとき、ワーカー本人だけでなく関係機関とも喜びを分かち合えます。期待通りに進まなくても、新たな景色が見えたと励まし合う存在でもあります。     ###今後に向けて ワーカーが飛び立つ日まで安心して試行錯誤できる場として今後もあり続けると共に、同様の働き方ができる場を増やしたいと考えます。縁あってデジKAMAで働くことを選んだワーカーには新たな挑戦ができるよう可能性を広げてほしいし、当事業では対象外として断らざるを得なかった日本全国の当事者・ご家族の声にも応えていきたいです。新しい働き方は熱意と工夫で実現できます。志を共にする人が増えることを願ってやみません。 VALT JAPAN株式会社:「就労困難者の大活躍時代をつくる」をビジョンに掲げるスタートアップ。潜在的な労働人材(障がいや難病のある方々)がビジネス市場で活躍できる仕組みを提供する就労困難者特化型DXプラットフォーム「NEXT HERO」を運営。創業から約10年間、民間企業からの外注業務を積極的に受注し、企業と就労困難者がマッチング・再委託することでビジネス市場に新たな価値を提供。全国47都道府県で12,000名を超える就労困難者とネットワークを築き、累計約400種類、1,500案件を超える業務を展開。