【ページ121】 ##3 世田谷サービス公社における障害者・難病者就労支援の取り組みについて 株式会社世田谷サービス公社 取締役 第二事業部長 ICT推進部長 森岡 秀樹 ###はじめに 株式会社世田谷サービス公社(以下、サービス公社)は、「地域社会の発展と区民福祉の向上に寄与する」ことを設立の趣旨とし、世田谷区の地方公社として設立されました。設立当初から、区行政を補完する役割をはたす中で、事業展開において様々な社会貢献に取り組むことを経営方針とし、高齢者、障害者等の雇用の拡大にも取り組んできました。 特に、障害者については、社会参加と経済的自立を支援するため、障害特性に応じた職場定着・相談支援体制を充実しながら、様々な障害のある方に就労の場を提供する取り組みを行い、雇用者数の拡大とともに、質にも重点を置いた雇用を目指しています。 従前は、障害者に対する就労支援が中心でしたが、近年は、難病者も同様に社会参加と経済的自立の支援を行うべく、具体的な施策を検討し、一部実施しています。 ###サービス公社の企業理念について 【企業理念】 『ひとと 街と 明日の まん中に』 ・株式会社世田谷サービス公社は、世田谷区の地方公社として、地域社会の発展と区民福祉の向上に寄与する経営を基本とします。 ・だれもが輝く働き方で、地域社会とともに歩み、持続可能な共生社会の実現に貢献する企業を目指します。 ・私たちは、つながる 広がる 心づかいで、区民の笑顔を増やします。   この企業理念、そして経営方針に基づき、様々な障害のある方もない方にも、積極的に就労の場を提供することを基本的な考え方としています。     ###障害者就労支援事業について 基本的考え方 サービス公社の企業理念、経営基本方針に基づき、独自の「障害者雇用推進計画」を作成し、行動指針としています。現在(2024年度)は第3期となる「障害者雇用推進計画〈2023~2025年度〉」を基に、障害者の就労支援を実施しています。 (図)全従業員数1034人、障害のある従業員88人(8.5%)→達成すべき法定雇用率2.5%、当社の障害者雇用率20.58%(算定基準日2024/6/1) 就労による支援 サービス公社は、設立当初から、世田谷区の「保護的就労調整制度」(注)を利用した障害者雇用に取り組み、主に知的障害者、身体障害者を、施設清掃、施設受付として雇用をしてきました。 近年では一般企業と同様にハローワークを介した一般採用を行い、知的障害者が増加するとともに、障害者差別解消法の改正に伴い、2016 年度より新たに精神障害者(発達障害者を含む)の採用を開始しております。これにより、現在、従前の施設清掃、施設受付の他、事務補助、販売業務に従事しており、世田谷区の公共施設23カ所で就労しています。 (図)2024年6月1日現在、維持管理施設69施設のうち、23施設において、84名の障害のある施設スタッフが働いています。本社、その他事業所において、4名の障害のある従業員が働いています。 ・就労障害者の在籍割合(施設維持管理部門):全施設スタッフ761人、障害のある施設スタッフ84人 ・障害種別:知的障害65人、精神障害18人、身体障害5人 ・職種:清掃75人、一般事務・販売員・事務補助等7人、受付6人 (注)世⽥⾕区保護的就労制度:知的障害、⾝体障害のある⽅が清掃や喫茶等のお仕事を通じて労働習慣や社会性を⾝につけ、企業等への就職をめざす世⽥⾕区独⾃の制度 就労障害者に対する支援 現在、公共施設の清掃に従事する障害者に対しては、各施設に2~3人の就労障害者に対し1人の割合で、「就労支援員」を配置しております。「就労支援員」の役割は、清掃マニュアルに基づいた清掃の支援を行うとともに、障害特性に応じた年間の個別支援計画の策定、就労障害者のサービス公社従業員としての職業生活面の日常的な支援も行っています。 また、本社では、5人の「就労指導員」を配置し、障害者の配置されている施設を日常的に巡回し、「就労支援員」や、施設の関係者からの相談に乗り、専門的な指導を実施しております。さらに、福祉の専門資格を持った「専門員」を配置し、障害者の個別の問題に対する対応を関係各所と連携を取り対応し、定期的に「就労支援員」に対する研修会の講師などを行っています。 この様な支援を実施することで、単に障害者を雇用するだけでなく、ノウハウの蓄積、専門人材の育成に努め、区内事業者の障害者雇用の支援など、新たな取り組みの展開も目指しています。 (図)障害者の就労を支える為に、施設監督者・就労指導員・就労支援員がサポートしています。 就労以外による支援 直接雇用による支援事業の他、以下のような取組みを実施しています。 1 就労体験 一般企業での就労を希望する特別支援学校生徒や就労継続・移行支援事務所を利用する障害者に対し、サービス公社の障害者就労施設で、一緒に就労を体験してもらい、将来的な障害者の社会的な自立のサポートを行っています。 2 就労困難者就労訓練 長期離職者、引きこもり等、すぐには一般企業で働くことが難しい人に、円滑に就職へと繋げられるよう就労訓練や体験実習の場を提供している事業。訓練者は、健常の従業員と共に働くことで、就労の訓練を行っています。 3 発達障害者施設外就労訓練 世田谷区発達障害者支援団体の施設外就労訓練の一環で、サービス公社の本社フロアーの一部を当該団体へ開放し、本社従業員と一緒に働く体験を通じ、就労に繋げる訓練と位置づけ支援しています。 4 短時間就労の試行 現在、サービス公社では清掃中心の作業を行っていますが、高齢等によるスキルダウンしてきた障害者のための軽作業、短時間労働の試行実施を行っています。 社内で、月6~8時間でできる作業を、健常の従業員と一緒に行っています。 ###難病者への支援 障害者の法定雇用率に反映されず就労につながらない、制度のはざまで孤立する難病者の社会参加を促す必要があると考え、従前の障害者への就労支援だけでなく、難病者に対する就労支援を開始しました。   難病者への間接的就労支援 直接雇用(正社員、契約社員)は、就労環境的にすぐには難しいとの見解から、2021年度より「業務委託」を行う間接的な支援を実施しております。 委託する業務を決定するため、各部署にて業務の切り出しを行いました。その際、難病者への仕事依頼を考えるのではなく、現在、困っていること、新規でやりたい事業、などの観点から考えました。 その結果、40を超える業務が抽出されました。障害者雇用部門で内容を精査し、個人情報を扱わない、テレワークや、遠隔地での作業が可能などの条件により2業務について、「業務委託」と言う形で、VALT JAPAN株式会社さんを介して、難病者への作業の委託が可能となりました。 また、サービス公社では毎年、社内での安全衛生啓発ポスターを従業員が作成していましたが、2024年度から、両育わーるどさんに紹介していただきましたイラストレーターの方に作成を委託しました。こちらのイラストは、本社執務室の他、世田谷区より「施設管理業務」を受託しております、60カ所以上の公共施設の事務所に掲示させていただいております。   在籍従業員への対応 サービス公社も、難病を発病し、フルタイム(8時30分~17時15分)の就労が厳しくなった従業員がいます。そのような従業員に対して、短縮勤務、テレワークを主体とした業務等、体調面や、難病特性を考えた勤務体系を取っています。また、担当業務(作業)についても、難病特性を考慮した作業としました。 以下に具体例をあげます。 1 正社員A:難病発症後、複数回手術を実施、その後、体力の低下が著しくなってきた。当該の業員と調整し、医師の診断書も参考にさせていただき、本人の体調を考え、9時~16時00分までの短縮勤務としました。業務は、所属部署の庶務業務担当、及び研修計画・推進担当とし、外回り中心の作業から、PC操作中心のデスクワーク作業としました。 2 契約社員B:難病発症後、集中力が持続できなくなる。さらに薬の副作用もあり、体が動かなくなる症状も発症していた。当該の従業員と調整し、医師の診断書も参考にさせていただき、週に3日、午前中のみ、結果、48時間/月の短縮勤務としました。業務は、所属部署の庶務業務担当とし、PC操作中心のデスクワーク作業としました。 ###今後の課題 難病特性や、障害特性に合わせた就労職場環境の整備、就業規則の整理が必要と思っております。こちらにつきまして、障害者雇用推進計画に基づきPT(プロジェクトチーム)を組み検討を行っており、今後の直接雇用の拡大につなげていきたいと思っております。 ###最後に 近年、障害者・難病者の雇用について、事業者の法定雇用率の達成度ばかりが注目されがちですが、「雇用」の中身について、検討と精査が必要と考えます。 法定雇用率の達成と言うのは大事なことであると思いますが、雇用後に、どのような業務を任せるのか、どのように支援ができるのか、どのように継続的な雇用を保つのか、時間をかけ精査し、その実現に向けた様々な環境整備することが大切と考えます。 サービス公社では、「雇用の質」を重視し、社会参加の促進と経済的自立を支援する地方公社としての役割を踏まえ、それぞれの特性に応じた職場(就労)定着・相談支援体制を充実しながら、積極的に就労の場を提供することを基本的な考え方として取り組みを進めていきます。   株式会社世田谷サービス公社:1985年に世田谷区が出資する株式会社として、「地域社会の発展と区民福祉の向上に寄与すること」を目的とし設立。公共施設の維持管理事業、世田谷美術館内のレストラン「ル・ジャルダン」をはじめとした飲食事業、世田谷区役所のICT支援事業、コミュニティ放送「エフエム世田谷」の運営などに取り組み、地域社会、コミュニティの発展という社会的要請に応えるべく、事業を展開している。