【ページ125】 ##4「病気と仕事の両立支援」の推進について 一般社団法人ピーペック 代表理事 宿野部 武志 ###現状 病気をもつ人の就労を取り巻く現状については、厚労省の調査によると「何らかの傷病によって病院に通院している人」は、1,000人あたり417.3人(4割強)おり、働き盛りの40代においても1,000人あたり280.2人(約3割)に上ります。これは、病気をもつことは決して他人事ではないことを表しています。 加えて現在の労働環境においては、人材不足、採用難の時代に入っています。そのような状況を鑑みてみれば、いかに一人一人の社員を大切にするかは自明なはずですが、現状はそうなっていないと私たちの活動からも感じています。   ちなみに、「障害者雇用率制度」においては、2024年4月より法定雇用率が段階的に引き上げられていますが、それでも厚生労働省が発表した「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によると達成企業は50.1%となっています。 また、その「障害者雇用率」の対象とならない病気をもつ人の就労においては、さらに就職及び就労継続における壁が存在しています。 ###課題 企業の事情 当然誰でも病気になることは理解しているが、企業という利益を追求する組織で働く状況下においては、常に短期的長期的を問わず高い基準の質とスピードと生産性が常に問われ続けられています。 企業といっても結局、それは人の集合体です。「組織」としての視点と「社員」としての視点の両方のバランスを考慮した経営が重要ですが、企業内の議論においてはこれまでは比較的「組織論」が重視される傾向にあったと思います。   また、これまで様々なアンケート調査の結果や、直接企業の人事担当者との面談等を通して感じていることとして、企業においては前述した「障害者雇用」については理解し雇用促進を図る意識はあり、また最近では「がんと就労」について取り組む企業は増えているようです。しかしながら、いわゆる、「難病」や「慢性疾患」「希少疾患」といったことに対して必要性は感じつつも、および腰の企業が多いように感じています。   ただ、同時にこれを単純に「理解不足」と嘆くのは企業にとっていささか気の毒にも思っています。というのは、「難病」や「慢性疾患」「希少疾患」についてその「センシティブ」な問題についての理解を深めようと思ってもその方法が分からなかったり、人事担当者の忙しさ等様々な事情も考慮する必要があります。   病気をもつ当事者の事情 状況としては、「すでに病気をもっている者が就職をする場合」と「就労していて病気をもつ場合」を考える必要がありますが、前者であれば自身の経験も踏まえて思うのは病気である自分が他の病気をもたない人たちと一緒に働けるのかという不安だったり、後者であれば治療への不安に加えて、今までと同じペースで仕事が出来ないことに辛さを感じ、今後の昇進等への影響の心配も生じることから病気のことを上司や人事に伝えることができないといった事情もあります。 ###ピーペックとしての取り組み 上記に書いた「企業」「病気をもつ当事者」、またそれを包含した大きな意味での「社会」に対して「治療と仕事の両立」への理解を広め促進するためのアプローチは、法制面も含めて複数あると思います。 また、現在患者会・患者支援団体、就労支援に携わるそれぞれの団体のあり方や強みを活かした取り組みが行われています。   ピーペックでは、「治療と仕事の両立支援」ついて、「病気に伴い仕事と両立するのは治療だけではない」という考えから、あえて「病気と仕事の両立支援」と呼んでいます。 取り組んできたこととしては、病気をもつ方と支援をする方、双方を参加者として「当事者と一緒に考える難病の就労・両立支援 当事者×支援者協働ワークショップ」を開催したり、製薬企業主催で開催された「病気と仕事の両立支援」ワークショップにピーペックの事務局メンバーと私が登壇する等をしてきました。   今後、私たちピーペックの「病気と仕事の両立支援」に関する取り組みとしては、今病気でない方が病気になってしまっても辞めずに働き続けられる社会」をまず重点的に力を入れていきたいと思っています。それは、企業、社会へのアプローチとして、病気をもつ人が働きやすい土壌をしっかり整えていくことです。 何か要求する、されるといった、企業、社会と病気をもつ人との対立構造にも近いあり方を変えていきます。   私どもが取り組むうえで一つのキーワードとして考えているのが、「ピアサポート」の力です。私たちは2024年2月1日~2月12日にかけて、難病等の長期の療養が必要な慢性疾患をおもちの方かつ就労経験のある方(現在働いていない方も対象)を対象に「両立支援とピアサポートに関するアンケート」を実施し、116名の方から回答をいただきました。その結果から「両立支援に関してピアサポートがあれば使ってみたいか」との問いに、78%の方が使ってみたいと回答をいただいています。   また、私自身腎臓病をもち生きていくうえでは、同じ病気をもつ仲間がいることが大きな支えになりましたし、腎臓病をもつ方へのピアサポート活動を長年続けてきてその力を実感してきました。「ピアサポート」を活かした両立支援のあり方の仕組みをしっかり作っていく予定です。   今年2025年から7年目を迎えたピーペックは設立当初から病気をもつメンバーともたないメンバーがオンラインで業務を進めてきました。コミュニケーションは主にslackを用いて、毎朝始業時にはその日の業務内容に加えて、自身の体調を10段階で評価して共有しています。私たちの働き方自体も一つのロールモデルとして発信しながら、ピーペックらしい「病気と仕事の両立支援」の取り組みを本格的にスタートしていきます。   一般社団法人ピーペック:それぞれの慢性疾患領域において、生活・就労支援、エンパワーメント支援の活動をしてきた仲間が集い、2019年1月に設立した非営利型の一般社団法人。 病気をもつ人は「可哀そう」「護られる存在である」などの社会通念をぶち破り、病気をもっているからこそ「社会を変えるパワーがある!」という想いを胸に、「どうしようもある、世の中へ」をビジョンに掲げ活動中。