【ページ151】 ##制約を可能性に変える超短時間雇用の挑戦 社会変革推進財団(SIIF) 龍治 玲奈 私は長年、企業の社会貢献活動を通じて、障害や病気など多様な背景のある方々の就労支援に取り組んでまいりました。そのような背景より、昨年(令和6年)に、「超短時間労働」という、最短で1日15分の労働でも報酬を得られる※1就業モデルの企業における仕組みづくりに携わりました。この取り組みは、長時間の勤務が難しい方々にも就労の機会を広げ、社会に埋もれている多様な才能を引き出すことを目指しています。   ある難病を抱える方との出会いは、この仕組みの可能性を強く感じさせるものでした。彼女は難病発症前、第一線で活躍していましたが、病気を機にフルタイムの働き方が困難となり、一時は仕事を離れていました。しかし、今回の雇用をきっかけに再び活躍の場を得ると、企業の新規事業に対して独自の視点を提供。その提案は「発想の転換」として高く評価されました。このような事例は、難病や障害による制約を抱えつつも、社会に貢献できる人々の潜在力を証明しています。   日本には約108.7万人の指定難病者がいます。そのほか、制度の対象外となり支援を受けられない600万人近くの方がいます。これらの方々の多くは働きたい意欲を持ちながら、適切な就労機会がないため、不安定な状況に置かれています。難病者の多くは成人後に発症するため、社会に出て働き盛りの世代であることが少なくありません。彼らの就労を支援することは、社会全体の労働力不足の解消にとっても大きな可能性を秘めています。   企業の経営課題としても、人材の多様性を確保することは重要性を増しています。ハーバードビジネスレビューによると、多様性のある組織はそうでない組織よりもイノベーションによる収益が高いとされています※2。また、事業基盤の強化や新規事業の開発といった目標を達成する上で、多様な視点のある人財は欠かせません。難病者の雇用は単なる社会貢献ではなく、企業の競争力やイノベーションの創出を高める鍵とも言えるのです。   超短時間雇用の仕組みで難病者を採用した上記の企業では、その後、障害のあるお子様を育てるお母様を、同じ超短時間雇用の仕組みで採用しました。障害の当事者だけでなく、子育てや介護といった支援側の人々もこの仕組みならば働けます。フルタイムでの雇用は難しいかもしれませんが、精一杯のスキルを活かして社会に関わり続けることができるのです。当初マイノリティの社会参画を目的として導入されたこの仕組みは、幅広くインクルージョン(=インクルーシブ社会)を実現する触媒に変わっていく姿を見せていただきました。それは、とても豊かなものでした。   少子高齢化が進む日本は、これからの「働き方」の先進モデルを世界に示すことができます。「制約があるからこそ見える価値」を活かし、多様性を受け入れることで、社会も企業も共に成長できる未来が実現すると信じています。この未来に向け、企業と社会が一体となり、柔軟で多様な働き方・社会参画の在り方を拡げる取り組みが進められることを期待し、私自身もこれからも精一杯取り組んでまいりたいと存じます。 ※1:「超短時間労働」で障害者雇用を多様化する 東京大学 先端科学技術研究センター(先端研)の近藤武夫准教授は、このような状況を打開すべく、「超短時間労働」という、最短で1日15分の労働でも報酬を得られるような就業モデルを提案しています。 https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z0508_00009.html ※2:How and Where Diversity Drives Financial Performance 6つの多様性の次元(移民、業界、キャリアパス、性別、教育、年齢)の平均として測定された、平均以上の総合的な多様性を持つ企業は、イノベーション収益が平均で19パーセントポイント高く、EBIT(Earnings before interest and taxes)マージンが平均で9パーセントポイント高かった。 https://hbr.org/2018/01/how-and-where-diversity-drives-financial-performance ・PROFILE・ りゅうじ れな:製造業・IT企業で官民連携を推進。現職、社会変革推進財団(SIIF)。著書『CSRを超えて』(丸善出版)。JWLI Champion of Change Japan 第一回〜第五回 審査員。NPO法人 シャプラニール=市民による海外協力の会 評議員。Salzburg Global Japan-India Transformative Technology Network のメンター・ファシリテーター 〔執筆者写真〕