【162ページ】   **4_2 地方議員勉強会の概要と記録   ###第1回勉強会開催概要 ・開催日時 2023年8月4日(金)20:00-21:30 ・開催方法 オンライン(Zoom) ・登壇者(敬称略) 重光喬之(しげみつたかゆき) NPO法人両育わーるど 理事長、多摩大学大学院医療・介護ソリューション研究所 フェロー。20代半ばに脳脊髄液減少症を発症。民間企業2社、福祉施設の運営や地方自治体での障害者自立支援協議員などを経て、2018年に難病者の社会参加を考える研究会を立ち上げる。好きなものはSF小説と4つ打ち、持病の疼痛で円形脱毛症とせっかちさに拍車が掛かる。 秋山博子(あきやまひろこ) 2011年から静岡県焼津市議会議員(現在4期目)。無所属無党派の市民派議員として「女性議員を増やす会 なないろの風」「全国自治体議員行財政自主研究会」「焼津流、平和の作り方」「多文化共生社会を考える焼津市民の会いちご」「リニア焼津」などに参加、活動中。 伊東あきら(いとうあきら) 袖ケ浦市議会議員(1期目)仙台市出身、1968年2月6日生。議員になる前の職業は某通信会社。2017年に縁があって袖ケ浦市へ移住。アクアライン・自然・人間性等、可能性を求め地元の支援を受けながら2020年に初当選。スローガンは”住みやすさ日本一の街”。誰もが輝ける社会を目指し議員活動中。 現状の報告 難病の現状について 重光喬之(難病者の社会参加を考える研究会) 難病者の社会参加を考える研究会のこれまでの調査結果と取組について報告しました。また、国としての政策動向、地方自治体(明石市、米子市)での実践例について紹介しました。 議員質問の共有 焼津市における一般質問の報告 秋山博子 氏 身近に難病当事者がいたこと、難病者家族から相談を受けた経験から難病者の社会参加を考える研究会に参加し、2023年2月議会において、難病者に特化した就労支援について議会で質問を行いました。質問内容としては、(1)現状、(2)採用と勤務、(3)障害者福祉計画(2023年度中策定)の3項目について質問を行いました。今後の課題としては、現状調査・分析・評価を行い政策提案をしていくこと、また社会参加をサポートする支援の提案を行っていくことと考えています。 袖ケ浦市における一般質問の報告 伊東あきら 氏 2023年3月議会において2回の一般質問を行いました。1回目の質問では(1)市の障害者・難病者に対する就労支援、(2)市役所の障害者雇用の状況、2回目の質問では(1)市の障害者・難病者の現状、(2)「第7期障害福祉計画」の作成にあたり難病当事者たちの声を尊重していくことについて質問・提案を行いました。取組は途上であるものの、質問後に障害者雇用が法定雇用水準まで進むなど、一定の成果もありました。 グループディスカッション 3つのグループに分かれてディスカッションを行い、以下の意見が寄せられました。   難病当事者の就労・社会参加におけるハードル ・体調に起伏があること、雇用者の理解を得ること、専門の相談窓口がないことがハードルになっているのではないか。 ・体調が不安定であり、仕事のスケジュールを立てにくい。 ・難病当事者というのは特別なことではない。働く人の条件に合わせて働けるように環境を整えていくことが必要である。 ・同じ病気の方が少なく、孤独であること自体が一つのハードルになっていると思われる。   議員として、難病当事者の就労・社会参加に何ができるか ・DXや農福連携を進めることにより、難病当事者の就労・社会参加を拡大できるのではないか。 ・周囲が難病当事者の痛みに気付くのは難しいため、ヘルプマークなど周囲の理解を得るための啓発活動に取り組むのが重要である。 ・障害者手帳を取得できない、制度のはざまにある難病者の存在に、議会や市民に気付いてもらえるよう取り組みたい。 難病者の就労の機会を増やすために、何を把握する必要があるか ・県と基礎自治体が連携して現状を把握すること、自治体における難病当事者の就労状況がどうであるか、ハローワークと連携した実態の把握が重要ではないか。 ・難病当事者の正確な数を補足するのは難しいのが現状である。国が発表している当事者数を踏まえ、難病当事者に寄り添った取組を継続することが重要ではないか。 ・就労支援事業者についても知る必要があるのではないか。 ###第2回勉強会開催概要 ・開催日時 2023年10月23日(月) ・開催方法 オンライン(Zoom) ・登壇者(敬称略) 佐藤信成(さとうのぶなり) 鹿嶋市議会議員。自身も身体障害者であることから、難病患者をめぐる制度や就労、社会参加に関心を持ち、活動しています。 たぞえ麻友(たぞえまゆ) 目黒区議会委員。2015年に「WOMAN SHIFT」に立ち上げから参加し、現在は理事を務めています。 徳岡真紀(とくおかまき) 三次市議会委員。東日本大震災をきっかけに三次市にUターン移住し、2020年に三次市議会議員に当選。 中原一憲(なかはらかずのり) 明石市総務局職員室長。 事例紹介① 鹿嶋市の議会質問について 佐藤信成 氏 ・当面の目標は、難病当事者の就労支援である。自治体に難病当事者について知ってもらい、向き合ってもらうことが必要です。また、障がい者福祉計画への反映も実施していく必要があります。 ・議員質問では、難病当事者に対する支援体制、就労状況、第7期障がい福祉計画について質問を行いました。 ・難病当事者については、議会で取り扱われることがまだまだ少ないため、議論の俎上に上げていただきたいです。 目黒区の議会質問について たぞえ麻友 氏 ・難病当事者の就労支援はまだハードルが高いと考えていたが、区としてもさまざまな取組みを検討しており、期待以上の前向きな回答がありました。 ・一方、先般提出された厚生労働省の方針を把握していない部署もあったため、周知が重要であることを改めて実感しました。 ・計画改訂に当たってのアンケート調査において、指定難病者以外も対象とすることも検討するよう要望しました。   三次市の議会質問について 徳岡真紀 氏 ・多くの自治体の福祉計画においては難病についての言及がない中、三次市の「第6期障害福祉計画」では、難病当事者についても記載があります。第7期の福祉計画には、難病当事者に対する施策について具体的に盛り込めないかと考え、質問しました。 ・質問では、三次市の指定難病者等の現状、就労促進への取組みの予定、難病当事者への取組みについて質問しました。 ・限られた時間ではあったが、難病当事者について知っていただくきっかけにはなったのではないかと思います。 事例紹介② 明石市における難病者就労支援の取組み 中原一憲 氏 ・明石市では、平成25年度に明石市で初めてとなる障害者採用試験を実施。平成27年度には、難病者にも対象を広げて採用を実施しました。 ・受験資格や申込時・試験時において、合理的配慮を実施した。近年では、職員個々の状況に応じて、勤務時間の短縮や療養休暇の柔軟な取得を実施していています。 ・障害者雇用促進施策として、市役所内作業所や市役所内福祉コンビニでの雇用を実施しています。 (表)明石市の障害者雇用率の推移〔一部省略〕 平成25年度 法定雇用率2.3% 障害者雇用率2.36% 障害者数43 平成30年度 法定雇用率2.5% 障害者雇用率2.23% 障害者数56 令和3年度 法定雇用率2.6% 障害者雇用率2.62% 障害者数81 令和5年度 法定雇用率2.6% 障害者雇用率2.61% 障害者数81 パネルディスカッション 2つのテーマについて、パネルディスカッションを実施し、以下の意見が寄せられました。   なぜ難病が議会や地方行政で取り上げられてこなかったと思うか ・難病の定義がわかりにくい。一見難病だとわからない、難病への理解が薄い。障害者と難病者の違いが認知されていない。 ・難病が都道府県の管轄であるため、取り上げにくいのではないか。 ・難病の組織が少ないためではないか。   地方行政で難病者の就労・社会参加に対して何から進めていくか ・これまでの意見聴取の中では、困りごとへの質問だったが、難病者から働きたいという相談があった際の受け皿をつくっておくことが大切。難病カフェのように、難病者が気軽に話ができる居場所があるとよい。 ・難病者でも働けるということを知ってもらうことが重要ではないか。 ・雇用体制の制度の改正が必要なのではないか。 グループディスカッション  3つのグループに分かれてディスカッションを行い、以下の意見が寄せられました。 難病者へ就労機会を独自に提供するにはどのようなアプローチが考えられるか ・難病者についての議会質問が各地で初めて実施された。質問をすることで、施策の検討が前進すると実感しました。 ・難病者の置かれている状況を初めて知り、これを周囲に伝えていきたいと思います。 『第7期障害福祉計画』の開始前に、どのような一般質問ができるか ・地域で検討できるとよいと思いますが、民間事業者に検討を丸投げしてしまっている場合もあると聞いています。議員側からも、策定に関与できるよう働きかけたいです。 ・短時間勤務の雇用労働者数に応じて、特例給付金を支給する制度がありますが、あまり知られていないため、自治体・事業者への周知を行っていきたいです。 ###第3回勉強会開催概要 ・開催日時 2024年1月22日(月)20:00-21:30 ・開催方法 オンライン(Zoom) ・登壇者(敬称略) 夏目亜季(なつめあき) 京都府舞鶴市出身。1990年10月26日生まれ。現在、荒川区議会議員2期。17歳から難病(SLE)と闘病。20歳で上京し芸能活動に勤しむ中、23歳で子宮頸がんと診断。その後も度重なる難病の再燃など、自分の経験から講演の仕事を始めたが「伝えるだけでなく、制度で人を救いたい」と感じ政治家になると決心。2022年「逆境力~難病、子宮頸がんを乗り越えアイドルから政治家へ~」を出版し現在もライブや講演を行っている。難病の方も障がいのある方も安心していきやすい世の中、予防して救える命は取りこぼさないをモットーに日々活動中。 仲島雄大(なかじまゆうた) 埼玉県出身。1967年7月26日生まれ。2023年統一地方選挙にて当選、現在埼玉県伊奈町議会議員1期目。「潰瘍性大腸炎」罹患歴約30年。難病でも自分のやりたいことを諦めないでほしいという思いがあり、政治活動時から一貫して難病当事者であることを開示。自動車ディーラー整備士、自動車整備士養成校教員等を経験。現在は、議員と自動車ディーラーでの兼職。24歳ころから下痢、下血や粘液便があり、確定に約2年を費やした。40歳半ばに仕事への執着がなくなり、社会への恩返しとして「埼玉IBDの会」に携わる。患者会での経験等から議員の道を志し、現在に至る。 佐藤信成(さとうのぶなり) 鹿嶋市議会議員。 たぞえ麻友(たぞえまゆ) 目黒区議会議員。 当事者議員からの体験談、質疑応答 荒川区議会議員の夏目亜季さん、伊奈町議会議員の仲島雄大さんから、難病当事者としての自己体験を踏まえた議員活動内容について講演いただきました。二人に共通して、「あまり知られていない病気であるため治療を含め対処法が分からない」、「一見、健康そうに見えるため、治療中の副作用や病状悪化の際に、周囲からの理解が得られにくい」といった経験がありました。 夏目議員は、17歳のときに自己免疫性溶結性貧血という難病に罹患しました。その後、病気が再発してしまい治療のためステロイドを投薬。副作用で顔がむくんでしまい、事情が分からない人からは「自己管理が足りない」と言われてしまい、周りの理解を得るが難しかったと言います。その上、全身性エリテマトーデスや子宮頸がんなど立て続けに病気を経験したにも関わらず苦境をバネにして講演活動を開始しました。その後、様々な人々との出会いを通じ「政治家は間接的に人の命を救える仕事」との信念から議員に立候補し当選。 議員活動の一環としてとして自分の経験をもとに本議会、予算・決算委員会、また区の職員に働きかけ共感を得ることによって、来年度より難病者の移動費用を支援する『福祉タクシー』事業が開始される予定です。 仲島議員も見た目が健康そうに見えるものの、20代半ばに潰瘍性大腸炎に罹患。初めはストレスによる腸炎と診断されるなど、確定診断までに2年を要しました。また、診断後も難病を治療できる医者や治療薬がなく、20年間症状に悩まされていました。その後、良い医者と薬に出会い症状は改善されるものの、症状には良い時、悪い時の波がありいかに良い状態を維持するかが大事と実感。また難病患者にとって生活を成り立たせる為の就労が一番の課題だと痛感しました。同じ患者同士で情報を共有し合う「埼玉IBDの会」へ入会し、活動の傍ら「見た目では分からない難病患者も、健常な人と一緒に働ける」と言う信念のもと、2023年から自ら政治の世界に入り、“難病患者でもやりたい事を諦めないでほしい”と様々な活動を続けています。 過去の一般質問とこれから有効な質問にむけて 今まで一般質問で難病を取り上げた佐藤議員、たぞえ議員より、様々な提案が挙げられました。そこでは、難病患者が働くことに自信が持てず、遠慮してしまうということが多く挙げられました。対応策として、「特定医療費(指定難病)受給者証の更新時に状態を聞く」、「商工会に働きかけ難病患者でも応募ができる人材サイトの構築」、「自分自身を見つめ直すツールを作る」などの意見が提案されました。また基礎調査の段階で「何が不便ですか」と聞くのではなく、「どのように働きたいですか」といった本人がやりたい内容を聞くことも有効ではないかとの意見もありました。 ###第4回勉強会開催概要 ・開催日時 2025年1月23日(木)16:20-18:00 ・開催方法 オンライン(Zoom) ・登壇者(敬称略) 藤本好彦(ふじもと よしひこ) 百姓として山梨県議会議員として、山梨県と自治体と集落と農家が一緒に農業政策を進めるために日々奮闘。2022年3月に山梨県主要農作物種子条例を、2025年3月に、山梨県版の食料安全保障推進条例である「山梨県の豊かな農業と農村を守る条例」を議員提案し制定。一方、介護ヘルパーとして25年目を迎え、常に「地域まるごと」介護と福祉の視点を持ちながら、強度行動障害や難病の方々の社会参画の促進に取り組む。 夏目亜季(なつめあき) 荒川区議会議員。 たぞえ麻友(たぞえまゆ) 目黒区議会委員。 名和杏子(なわきょうこ) 社会福祉士、公認心理師で就労支援に従事 講演及び情報提供 山梨県庁における難病者枠の雇用事例紹介 藤本好彦 氏 山梨県庁では、令和6年度職員採用試験に難病患者枠を全国で初め設定しました。そのきっかけとなった議会質問の動機、議会質問後わずか4カ月で県から発表があるまでのやり取り・報道、発表後の反響について紹介いただきました。また、難病患者枠3名の入職後の定着支援について3月に議会質問予定であること、ご専門である第一次産業政策と難病者の就労問題への想いについて報告いただきました。 荒川区から国へのアプローチ 夏目亜季 氏 難病当事者としての自己紹介ののち、ヘルプマーク普及活動や難病患者通院費助成制度の取組み、区公共施設入場無料の難病者への拡充について活動を紹介していただきました。また、難病患者の社会参加及び就労機会の拡充を求める意見書」を国宛に全会派一致で提出したことや、難病者雇用への取り組み、難病者の社会参加には理解と支援の両輪が必要であることをお話しいただきました。   地方行政からの就労アプローチの試行錯誤 たぞえ麻友 氏 たぞえ議員は、難病に関する議会質問を2回実施しています。1回目の議員質問では、指定難病と難病の違いを指摘し、難病の多さと支援制度の少なさを訴えました。そこから難病カフェがスタートし、安全な場所であることが大切であることを実感しました。2回目の議会質問では、法が未整備の部分こそ自治体が埋めるべきであること、法定雇用率の時短カウントや障害者サポートスタッフ2名をトライアルで雇用の公表、同じ目黒区にある東大先端研の超短時間雇用研究を一緒に取り組むことについての提案したことをご報告いただきました。 難病者の就労支援の現状 名和杏子 氏 難病当事者・就労支援員・研究会スタッフとしての自己紹介をしていただきました。17年入退院を繰り返し、薬を換えて寛解したこと、就労移行支援事業所を経て社会復帰し就労支援員となったこと、制度・支援があることの有難みを痛感したことをお話しいただきました。制度・支援にかからない難病者が存在すること、就労支援の概要、両立支援について、疲れやすさ・体調の変動・集中力活力の低下・免疫力の低下等難病者の症状はさまざまであること、難病者の就労支援は障害者の支援と大きくは変わらない、雇用促進法以外の難病者の雇用拡大、雇用率が上がるなかで企業の関心はそちらへ向きがち、訓練・実習の機会が必要、サービスの対象として障害者だけではなく難病の併記を増やして欲しい、雇用助成金も難病者が漏れている、採用の間口を広げるアクションを、私たちに武器を与えて欲しい、労働人口減少の時代に障害者も支える側になり得る、自分のように潜伏している難病者が多く存在することについてお話しいただきました。 パネルディスカッション 「地域における難病者の社会参加促進策について」というテーマで、第一部にお話いただいた、藤本議員、夏目議員、たぞえ議員、名和氏の4名にてディスカッションを行いました。 公務員の雇用形態として超短時間雇用は難しいのか、障害者手帳の持てない難病者は就職活動で苦労する、企業にとってもプラスがないと前に進まない、前例のないことに最初の一歩が踏み出せない、難病者自身もトリセツ等を作って売り込んでいくことが必要、働けることを伝える、”山梨方式”の横展開に期待、等について話し合われました。 質疑応答では、参加者の方から、難病の方は医療的知識がないと難しいと思われてしまう、難病の人が医療だけでなく就労したいというところまで認識が追いついていない、まずは知ってもらうこと、誰にでも起こり得ること、少しの支援があれば働ける方が大勢いる、障害者手帳のない方の実習の機会はあるのか、手帳の有無(法定雇用率に含まれない難病者)をどうやって乗り越えていくか、等のご質問・ご意見が交わされました。