【178ページ】 ##日本初、山梨県正規職員採用試験に「難病患者枠」 山梨県議会議員  藤本 好彦 私はこれまでの議員活動の中で、難病の方々の対策について3つの視点を大切に取り組んできました。それは、1. 難病医療を提供する体制、2. 難病の方の就労支援、3. 難病の方の災害対策 です。そして、この3つの取り組みの継続した拡充が必要だと日々感じています。   1.難病医療を提供する体制 「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」施行前の特定疾患治療研究事業による医療費助成の対象疾病は、患者数の多い56疾病に限られていましたが、施行後は、国内でも患者数が数10名という稀少な疾病も対象として加えられ、現在では348疾病(令和7年4月)と大幅に広がっています。 難病は長期にわたる療養が必要で、医療費も高額になるため、対象として認定されることで、これまで患者数が少ないことから、医療費助成の対象にならずにいた患者や家族にとっても、医療費の助成が行われることで、経済的な負担が大きく軽減されてきています。 山梨県では、令和7年3月末時点で、5487名の方が医療費助成の対象として認定されていると聞いています。一方で、難病は、その多様で希少のため、難病と疑われながらも診断がついていない患者も数多くいると思います。   また、難病患者の中には、長期の入院を必要とする方もおられますが、適切な疾病の管理を行えば、就労や就学をしながら通常の日常生活を送ることが可能な方も多くおられます。 難病患者が、早い段階で適切な医療を受けられ、長期にわたる療養生活を安心して過ごすためには、まず、難病をできる限り早期に診断でき、また、診断後は身近で治療ができるような体制がさらに整えられることが重要です。 山梨県の実情を踏まえながら、今後も、難病医療の拠点となる山梨病院を中心に、地域の医療機関とのネットワークの構築や、難病医療に携わってくださる医療従事者の育成を行うため、関係医療機関や県医師会、保健所等で構成する協議会と力を合わせて、難病医療を提供してゆく体制のさらなる充実に向けて、取り組みを加速したいと思います。   2. 難病の方の就労支援 難病患者の治療と仕事の両立のための支援については、難病法の改正により、難病相談支援センターと福祉や就労に関する支援を行う者との連携の推進など、難病患者の療養生活の支援の強化が行われてきました。 難病を抱える方は、その症状が外見からわかりにくいことが多く、難病者が望む就労支援を行うには、専門的な知識が不可欠なため、山梨県では「難病相談・支援センター」に専門の就労支援員を配置して、在職中の発症者や就労希望者の相談に丁寧に対応しています。この就労支援員の資質向上のために、国の専門研修への派遣や、難病患者就職サポーターと密接に連携を取りながら事例の検討を行うなど、実践力を高めてきました。 さらに、ハローワークの難病患者就職サポーターによる相談や就職セミナーを「難病相談・支援センター」で実施するなど、ハローワークと力を合わせて就労を支援しています。   しかしながら最新の治療や働き方の工夫により、難病の方々が仕事で活躍できる範囲が広がってきている一方で、山梨県内には就労を希望しているにもかかわらず、体調の維持が難しいことから就労に自信が持てず、社会に踏み出せない難病者も多いと聞きました。 法令で事業者側に一定数の雇用を義務づけている障害者の雇用に比べて、難病者が義務化されていないことからも、難病を抱える方の雇用については、これまであまり目が向けられていませんでした。だからこそこれからは、より目が向くようにしていきます。 例えば、山梨県庁では、現在、知事部局においては102名の障害者を雇用していますが、このほかにも難病を抱えた職員がおられると思いますが、職員採用枠に障害者枠に準じて難病の方を対象とした採用枠等はありませんでした。 そこで、難病者がもっと持っている力を発揮できるように、就労支援に有効なアイデアを令和5年9月の本会議で提案しました。次の4点です:   ① 山梨県庁において難病を抱えながら仕事をする職員の数を把握すること ② 山梨県職員採用枠に障害者枠に準じて難病の方を対象とした採用枠を設けること ③ 山梨県内の民間企業を含め、難病の方々の病状に合わせた柔軟な労働時間を進めるためのショートタイムワーク制度を導入していくこと ④ 安心して心を許せる職場環境を用意すること   そして、令和5年9月定例議会での私の質問をきっかけのひとつに、令和6年度の山梨県職員採用試験に「難病患者枠」が設定され、3名の採用が決まりました。これが全国初の試み ”やまなし方式” として日々、テレビやラジオなど全国に発信され注目されています。令和7年4月からこの3名が入庁しますが、大切なのはこの方々が職場に定着し働きつづけられることです。その定着支援施策についてもこの春に議会質問をし、採用+定着をあわせて ”やまなし方式” と呼ばれるようにと考えています。まだまだ周知が進んでいない状況ですので、この取り組みの横展開を目指していきます。 参考までに、令和7年度山梨県職員採用試験における「難病患者枠」概要を本稿末に記します。   3. 難病の方の災害対策 難病者の中には、災害時に自力で避難のできない方がいることから、避難行動要支援者として事前に把握をしておき、各地域での避難を援助する備えが必要だと考えています。 山梨県では、これまで医療関係者や市町村の職員、患者会の代表者等によるワーキンググループを設置し、災害時の連携強化や支援体制の充実に向けて取り組んできました。 さらに、幅広い分野の障害者の施策を推進するため、「やまなし障害児・障害者プラン」を策定しています。このプランに加え、災害時における難病の方々への支援のあり方については、誰もが自分事と捉えて、きめ細かく検討していくことが必要だと考えます。   例えば、市町村が設置する福祉避難所で、避難所の運用マニュアルに難病患者を位置づけられるよう、難病の方々が安全に避難する仕組みの構築も求められます。 山梨県では難病患者さん本人に対して、災害が発生した場合の避難準備状況について、昨年、実態調査を行いました。この結果を土台として、災害が発生した時の課題をひとつずつ解決してゆき、“難病の方々の災害対策なら山梨県”を目指していきます。 【参考資料】 (※編集部注:本参考資料は、山梨県ホームページ山梨県職員採用情報の令和7年度採用試験案内からの抜粋・転載です。詳細は、山梨県ホームページを必ずご参照ください。) 令和7年度障害者・難病患者を対象とした山梨県職員採用選考試験案内(抜粋) 第1次試験日 令和7年9月28日(日) 受付期間 令和7年8月8日(金)~8月25日(月) この選考試験は、障害者の雇用の促進等に関する法律の趣旨に基づき、障害者・難病患者の雇用の促進を図ることを目的として行います。なお、この試験は、高等学校卒業程度の試験です。 1 試験職種及び採用予定人員等 (障害者区分) 試験職種 行政、採用予定人員 3名程度 職務内容 県の各機関に勤務し、一般行政事務に従事します。 (障害者区分) 試験職種 警察行政、採用予定人員 1名程度 職務内容 県警察の各機関に勤務し、警察行政事務に従事します。 (難病患者区分) 試験職種 行政、採用予定人員 3名程度 職務内容 県の各機関に勤務し、一般行政事務に従事します。   2 受験資格 (1) 受験できる者(一部抜粋) (難病患者区分)次の要件ア及びイを満たす者 ア 障害者総合支援法の対象となる疾病(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行令第一条に基づきこども家庭庁長官及び厚生労働大臣が定める特殊の疾病(平成27年厚生労働省告示第292号)に規定されている疾病 ※R7.4.1現在、376疾病)の診断を受けている者 イ 平成2年4月2日から平成20年4月1日までに生まれた者 ※障害者総合支援法の対象となる疾病の診断を受け、障害者手帳の交付も受けている場合は、障害者区分を受験することも可能です。ただし併願はできないため、どちらかを選択していただく必要があります。   3 試験日、合格者の発表 第1次試験 令和7年9月28日(日)、合格者発表 10月10日(金) 第2次試験 令和7年10月27日(月)~28日(火)のうち指定する1日 最終合格者発表 11月17日(月) (以上抜粋)山梨県ホームページ採用情報:https://www.pref.yamanashi.jp/jinji-iin/saiyou/recruit/05.html ###・PROFILE・ ふじもと よしひこ:百姓、山梨県議会議員、元南アルプス市議会議員、南アルプス市ですもも農家を営む(写真①)。2019年4月からは山梨県議会議員として、山梨県と自治体と集落と農家が一緒に農業政策を進めるために日々奮闘している(写真②)。2025年3月、山梨県版の食料安全保障推進条例である「山梨県の豊かな農業と農村を守る条例」を議員提案し制定される。さらに、農林水産高校や農林大学校の教育環境の充実を目指す、全国の都道府県議会議員による議員連盟設立に向けて、全国の議会や農業高校を行脚している。2023年、山梨県議会9月定例会において難病患者の就労支援について質問し、県一般職員採用試験に全国初となる難病患者枠設定のきっかけとなり話題となる。また、沖縄県での遺骨収集を長年にわたりつづけている(写真③)。   左上:写真①〔すももを収穫している写真〕 右上:写真②〔山々を背景に街頭演説している写真〕 左下:写真③〔遺骨収集をしている写真〕