【182ページ】 ##Episode-1 友人や職場への病気の開示による変化(太田 好俊) ###指定難病を患いながら シャルコー・マリー・トゥース病という指定難病を患いながら、企業勤めをしています。私は、高校生の頃から歩き方や手の震えなど、体に他者との違いを感じることはありましたが、まさか、それが難病が原因であるとは全く思っていませんでした。 今のようにインターネットでの検索も無かったため、周りも私自身も知識も全く無いし、気にならないこと、気にしないことにしていただけだったのかも知れません。 ###診察を受けようと思った背景 30歳を過ぎた頃から、周りから「歩き方がおかしい」と指摘されることが多くなりました。特に初めて会う人達で、そういう部分を聞かずにはいられない、もしくは配慮しようとしてくれる方が増えたのかもしれませんが、今考えると、若い時よりも筋力が低下していることで症状が顕著になってきた時期だったのかもしれません。 そういう風に言われる機会が増えると、自分もこれまで普通であったことが、いろいろと気になってきました。それが、診察を受けることを考えた背景でした。 最初、整形外科など複数の病院を受診しましたが原因が特定できず、ある医師から脳神経外科も勧められ、総合診療や検査が可能な大きな病院で、ようやくシャルコー・マリー・トゥース病(CMT)と診断されました。 ###シャルコー・マリー・トゥース病と自分の症状 シャルコー・マリー・トゥース病は、末梢神経に影響を与える遺伝性の進行性神経疾患であり、主に四肢の筋力低下や感覚障害を引き起こす、厚生労働省の指定難病(指定難病10)です。特に下肢の遠位部に症状が現れやすいため、歩き方などが特徴的になったりします。遺伝性運動感覚ニューロパチーとも呼ばれます。 私は、まだ自力で歩行できますが、神経の伝達が遅いことによる歩行の癖から、特定部分の筋肉を使わない歩き方になってしまうことで、更に筋力が弱くなるという悪循環に陥っています。 つま先をしっかり持ち上げて歩けない下垂足(かすいそく)という状態で、鶏歩(けいほ)で足を高く持ち上げる歩き方になります。 そのため、少しでも滑りやすい所ではすぐに滑って転ぶ、階段の上り下りが手摺が無いと怖くてフラフラする、ちょっと歩いただけで足を大きく上げ下げしているので、汗だくになるなど、普段の生活に軽度ですが様々な支障が出ます。 また、いわゆる直立不動で、支えが無い状態で長く立っていられないので、行列に並んだり、立食パーティー等は苦痛でしかないです。 プロ野球観戦も好きなのですが、球場は手摺の無い階段ばかりで、席に行くまでの階段が怖かったり、座ってからも途中でトイレに行きたくならないようにと考えて楽しめなかったりするので、誘ってもらっても席の場所によってお断りしたりもあります。 下肢だけでなく、上肢も、手が震えたり指が上手く動きにくい時があり、箸での食事やペンでの筆記の時に支障が出ることも度々あります。 バイキング形式の食事は、下肢と上肢での合わせ技によるストレスです。 ###他者へ病気を話していなかったことからの転機 病気のことは、なるべく人に知られたくなかったです。自分ができない事柄を共有することで、他者に気を使われてしまうのが嫌だったり、得られる機会を失ってしまうのではないかと考えていたためでした。 しかし、ある時から、逆に病気のことを打ち明けてみたところ、皆が気兼ねなく接してくれるようになり、気持ちが楽になりました。 数年前になりますが、地元に帰省している時に高校の友人と会う機会がありました。その友人が第一声で、「足悪いの?何か病気?」と聞いてきたので、その時は、「うん、ちょっとね・・・」と答えていました。でも、よほど気になったのか、「何の病気?治るの?何か治療しているの?」としつこく聞いてくるので、病気の内容や症状、難病でもあることを話すと、「そうなんだあ、大変だね。何か困る時は言ってね。」と段差や滑りやすそうな所で、「ここ段差あるよ」とか、「ここ、ちょっと滑る」とかをサラッと言ってくれるようになりました。 友人に話したことから、自分にも気付きがありました。私は、病気や自分の手足に不便さがあることを知られるのは恥ずかしい、相手に気を遣わせてしまうと思っていました。しかし、相手からすると、どうしたのか分からず、自分が配慮しないといけないことがあるのか、そしてそれを気にしていることを言っても良いのかなどを考えてしまって悩んだとのことでした。 私が自分のことを共有しただけで、友人も気が楽になったのでした。友人からも、「分からない方が気を遣うよ」と言われました。 ###自分からの発信で始まる周りの理解 病気のことを隠そうとするのではなく、積極的に周囲に伝えることで理解を得て、働きやすい環境を作ることができてきています。 例えば、同僚に「歩くのが少し苦手で、移動に時間がかかるので少しだけ早めに先に会議室へ行きますね」と伝えるだけでも、会議前にさぼっているのではなく、遅れないように考えて行動していると理解してもらえたりして、次回からは気楽に動けたりしています。 ###企業や社会に望むこと、未来への期待 働くということは、生きるための収入を得るためだけではなく、生きがいや活動の幅を拡げるためにも大切なことであると考えます。 企業においても、従業員の多様な働き方を支援する制度を導入・拡大していただけることを望みます。例えば、テレワークやフレックスタイム制の導入・活用など、従業員が働きやすい環境を整えることで、通勤や勤務時に症状が出てしまう、休憩が取りにくいという事の軽減や、通院の時間を作りやすかったり。従業員の生産性向上や技能はあるが、病気等で健常者と同じ勤務条件に適合できないという有能な方のさらなる雇用機会にもつながると思います。 ###まとめ シャルコー・マリー・トゥース病を患いながら働くことは、決して簡単なことではありません。しかし、周囲の理解と協力、そして自分自身の努力によって、充実した仕事人生を送ることができています。 私自身は、病気のことを隠すのではなく、周囲に自然に伝えることで、より働きやすい環境を得られていると思っています。 自身を気にして欲しいのではなく、苦しい部分もあるので理解してくれれば、過剰な気遣い無用ですよという思いをもって、これからも、関係する方々には遠慮なく自身の事を聞いてもらうつもりです。 ###Profile 太田好俊 おおた・よしとし シャルコー・マリー・トゥース病を患いながら企業で働く会社員。サウナや、プロ野球観戦が大好きなのだが、滑りやすい所や階段の上り下りが怖く長時間の歩行も辛いため活動への制約を感じている。そのような制約を感じながらも、日本国内の様々なサウナに行くことを目標にして症状の悪化に抗うために何ができるかをこれからも考えていきたい。 〔写真:寄稿者の写真〕