【215ページ】 ##難病カフェのススメ ― 支えあいの場づくりからはじまる未来 難病の制度と支援の谷間を考える会 代表 白井 誠一朗 難病や内部障害をもつ人たちが抱えるしんどさは、外からはなかなか見えにくいものです。疲れやすさや体調の不安定さ、そして「見た目では分からない」という理由で、支援が届かず、孤立を深めている人も少なくありません。そんな背景のなかで、私たちが始めたのが「難病カフェ」という取り組みです。この難病カフェは2016年頃から九州地域発の取り組みとして始まりました。 病名を超えて、生活の中にある困りごとや思いを気軽に話せる“居場所”をつくること。その経験を通して、難病カフェに行ってみたい、各地でこのような活動を始めたいと考える方などに向けて、難病カフェの活動についてご紹介したいと思います。   ###「当事者性」を重ねることで見えるもの   私は先天性ミオパチーという指定難病とともに生きてきました。中学までの生活は比較的普通に送れていましたが、15歳頃に呼吸不全を起こし、気管切開と呼吸器の導入を経て生活スタイルは一変しました。車いすでの生活になり、近隣の大学へ進学しました。そこで福祉制度を学ぶ中、障害をもつ当事者による運動の1つである自立生活運動の存在を知り、「制度」は当事者の声とともに作られてきていることを知りました。   大学卒業後、なんとなく参加した内部障害や難病の人たちを対象とした交流会で、内部障害や難病の人たちが抱える「見えない困難」が自分と重なることに驚きました。違う病名でも、体力の限界や誤解されやすさ、社会参加の難しさなど、共通するものがあったのです。この経験は、その後の活動の出発点となりました。   ###難病カフェは「交流の場」から始まる 私が関わった最初の当事者活動は、月に一度の交流会でした。仲良くやっていたものの、社会の無理解や制度の限界に直面する中で、自然と「交流」から「運動」へと活動がシフトしていきました。しかし、交流することを求めていたメンバーとの温度差が出てしまい、結果的には活動が続かなくなってしまいました。この経験から、活動の方向性が参加者の意向とズレると、どんなに社会的に意義のある活動であったとしても継続は難しいということを学びました。   だからこそ、「難病カフェ」ではあくまで「居場所づくり」に徹するようにしています。2017年にはじめた私たちの難病カフェは、出入り自由、お茶を飲むだけでもOK、話したい人は話す、というスタイルでおこなっています。企画やプログラムを用意せず、訪れる人自身がその場をどう使うかを決められるようにしています。  なお、これはあくまでも私たちの難病カフェの開催形式です。難病カフェといっても開催する団体によってさまざまな形式で行われていて、そういった「違い」があることも難病カフェの特徴の1つです。   ###「場」の力を借りる カフェを始めて気づいたのは、「場所」が雰囲気に大きく影響するということ。最初は大学の教室や公共施設で開催していましたが、最近は実際のカフェを借りて開催するようになりました。すると、お互いに話しかけやすい空気が自然と生まれ、初対面の人同士でも会話がはずむようになったのです。会議室のような場所では生まれにくかった「カフェらしい緩やかさ」が、通常の交流会とは異なる難病カフェの大きな魅力だと感じています。   もちろん、費用面のハードルはありますが、それを補って余りある効果があると感じています。 〔写真:開始前の難病カフェ〕 ###難病カフェを始めるときのヒント 各地で「自分も難病カフェをやってみたい」という声をいただくようになりました。そこで大事だと思うことを、いくつか共有したいと思います。   仲間づくりから始めよう 最初に大変なのは、場所よりも「一緒にやる人」です。無理に人を集める必要はありませんが、誰かと一緒に話し合いながら進めると、継続しやすくなります。   場所の雰囲気にこだわる 気軽に立ち寄れる空気感が大切です。無理に構えず、リラックスした雰囲気がある場所を選ぶと、自然と会話が生まれます。   トラブルへの備えはほどほどに 参加者が多いと、どうしてもいろいろな場面に出会います。でも「カフェだから」と考えると、ちょっと肩の力が抜けます。トラブルが起きた時に相談できる人やネットワークがあると安心です。   「外せないこと」はみんなで共有を 難病カフェという名前で活動する上で大切にしたいポイントは、「診断名を問わず誰でも歓迎すること」「話さなくてもいい空間にすること」など、最低限の価値観を共有することです。   ###難病カフェのネットワークづくりへ コロナ禍を経て現在、難病カフェの活動は少し停滞していますが、コロナ禍以前には全国の難病カフェをつなぐネットワークづくりにも取り組んでいました。なかなか常設という形で難病カフェを開くことは難しい中で、それぞれの地域での難病カフェの取り組みが広がるように、という思いではじめたものです。今後は「難病カフェの手引き」のような形でノウハウを共有し、はじめの一歩を踏み出す人の支えになれるような活動もしていけたらと考えています。 なお、難病カフェに取り組んでいる人たち有志によるネットワークで以前、難病カフェの主催者として共通して守るべき約束事を話し合って暫定版として作ったものがありますので、参考までにコラムの最後に載せておきます。   ###「仲良くやる」ことの大切さ 最後に、これから難病カフェに限らず、当事者活動を始めようと思っている方へお伝えしたいのは、「仲良くやってください」ということです。仲間と何かをするというのは、時に意見の違いもありますが、無理せず、ゆっくり、互いに相手を思いやりながら続けていくことが何より大切だと思います。 ###~ 難病カフェ Our Promise ver1.0 ~ ① 難病カフェは疾患種別を超えて、難病を抱える人などが気軽に過ごせる居場所です。 ② 難病カフェは利用者だけでなく、スタッフにも当事者がいます。利用する方だけでなく、スタッフの体調にも配慮した運営を行います。 ③ 難病カフェは非営利を原則とします。 ④ 違う考えや意見がある人であっても、一方的に否定したり、意見を押し付けることはしません。お互いの背景や状況を考えて話をします。 ⑤ 企画等に参加するか、関わり方については、利用される方の自由です。 ⑥ 参加者同士で話された個人情報やプライバシーに関する事柄については、本人の許可なしに個人が特定されてしまうような形で外部に公表しません。 ⑦ ほかの患者が体験した治療法や副作用などの話は、一つの例に過ぎず、だれにでも該当するわけではないので、特定の医師や医療機関、治療法等の推薦はしません。あくまでも個人の経験として話をします。 ⑧ 特定の患者会や障害者団体の勧誘を目的とした参加はお断りします。 ⑨ 特定の物品の広告宣伝や勧奨、販売などの活動、宗教団体への勧誘、各種の宗教活動、政治活動はしません。また、カフェの利用者が同様の行為を行うことも禁止します。 ⑩ 参加者の迷惑になる行為や発言(セクハラ・パワハラなど)があった場合は注意することがあります。   ###PROFILE しらい せいいちろう:1983年東京生まれ。 先天性ミオパチーの当事者。難病の制度と支援の谷間を考える会代表。DPI日本会議事務局次長。15歳の時に症状が進行し、外出時の車いす使用、気管切開、夜間就寝時に人工呼吸器を使用しながら生活をしている。普段は障害者団体の当事者スタッフとして働きながら、休日を活用して難病カフェなどの活動を行っている。 〔写真:寄稿者写真〕