【187ページ】 ##Episode-3 マコとカノンから教わる、人生の学び、そして宿題(加藤 さくら、永峰 玲子) ###愛する我が子に障害があると分かったとき 加藤 娘の真心(以下、マコ)は生後6カ月で首もすわらず寝返りもしなかったので任意の健診を受けたところ、大きな病院を紹介され、精密検査の後、筋ジストロフィーの疑いと告げられました。(確定診断は生後9カ月)進行性の難病、そして当時寿命10代と文献に書かれてあったことに絶望を感じ、数か月間はふさぎ込んでいました。 しかし、当時の主治医に「お母さん、情報に振り回されないでね。マコちゃんが何をしたら喜ぶか、よーく見てあげてね。」と言われたことを機に、目の前で生きる娘との関わりに集中しようと思えるようになりました。実際、表情ひとつひとつを目に留めてみると、マコ自身はこの世に誕生したその日からずっと、家族に囲まれて幸せな日々を過ごしていたことに気が付いたのです。 障害がある本人に悲壮感が全くないのに、周りが絶望しているのはお門違いだと反省し、その後はマコ自身がどう感じているか、何をしたいか、事実を大切にしていこうと決意しました。 〔写真:親子で笑顔の写真〕   永峰 娘の楓音(以下カノン)は生まれた日にてんかん発作を発症し、大きな病院に搬送されてNICU、一般病棟で2ヵ月間入院。その間に様々な検査を行い難治性の大田原症候群と診断されました。当時は現実を受け入れられず、いつかきっと治る、こんなに医学が発達しているのだからそんなはずはないと自分に言い聞かせてみるものの、ネットに出てくる暗い情報を見ては落ち込み、この先どうなるか、いつまで病院生活が続くのか、分からないことからくる不安や恐怖がありました。 日本に100人未満とされる希少難病でしたが、2つ年上の同じ疾患の子どもがいるご家族をブログで発見し会いに行きました。目も見えず、言葉も話せず、寝たきりの状態で想像以上に重い障害程度でしたが、ご家族の方が「可愛いでしょう?!抱っこが大好きで甘えん坊なの♪」と明るく子育てしている姿をみて、自分が勝手に障害に対して偏見を持ってかわいそうと思っていたことに気付かされて前を向けるきっかけになりました。 〔写真:親子で笑顔の写真〕 ###生きる 加藤 マコはとにかく社交的な性格で、お出かけが大好き。そして自己主張が激しいため、何をしたいか、どう感じているかを最低限の語彙力と最大限の非言語的コミュニケーションを活用して伝えてくれます。「好きなモノ」にはキラキラした瞳になり、「嫌なモノ」には白目をむきます。車椅子ユーザーかつ、全介助が必要なマコとのお出かけは、公共機関での移動やトイレ環境など大変なことも多々ありますが、「電車に乗りたい!」「〇〇行きたい!」と言い実現すると瞳をキラキラさせ喜びに満ちている彼女をみると、私自身も生きる喜びを感じて幸せです。『今・ここにまっすぐに生きる』、それは幸せの本質なのだと彼女のおかげで日々感じています。   永峰 カノンは15歳になっても首もすわらず、寝返りもできない状態ですが、トランポリンやブランコなどの激しい動きが大好きです。障害があると「危険だから」と心配が先行して諦めがちですが、工夫や周りの協力をいただきながら様々な経験を通して人生を楽しんいると思います。小さい頃から続けている水泳では、潜ることもできるようになり本人のやる気を感じることができます。 ###人生の宿題 加藤 マコと一緒に生きる中でラスボスの如く立ちはだかる課題があります。それは、『私や夫が死んだあと、マコが幸せに生きるためにはどんな環境整備が必要か』ということ。私たちより先にマコがこの世を去る可能性を考え始めると思考が停止してしまうのですが、有難いことに長く生きる可能性も十分あります。ただ、用意されている道がないのです。 もはやマコと過ごす人生はだだっ広い野原に道をつくるようなものだと思っているので、ひたすらやるのみ。もちろん一人では攻略できないので、同じ志をもつ障害がある子の親御さんと出逢うために、2023年オンラインサロン『LIVE MY LIFE』をつくりました。「自分の人生を生きる、Happyな親離れ・子離れをする」と決めた仲間が年々増えています。 個々が子どもが心地よく過ごせる人生のデザインを構築することで新たな選択肢がこの世にうまれ、それが結果的に他の障害がある子の親御さんの選択肢の幅を豊かにすることにも繋がると思います。進行する難病をもつ娘が教えてくれた、今・ここを存分に味わい生きることを大切にしながら、将来に備えて動いていこうと思います。 永峰 カノンは赤ちゃんの頃から健常児と共に過ごすことを大切にしてきました。お友達と一緒に遊んで沢山おでかけもしました。 しかし障害児向けの通園施設や特別支援学校に通い始めると徐々に交わる機会が少なくなってしまいました。リハビリや子どもに合った生活支援がしっかり受けられる専門の施設は大切なのですが、同世代の子どもたちとの関わりが極端に減ってしまいました。 身体が大きくなるにつれてお出かけ先でも階段やトイレ(大人用おむつ替え台がない)などの課題も増えて外出が億劫になってきました。街中で車椅子や障害のある方に出逢う機会って少ないですよね?でも実のところ世の中には多くの課題を抱えた方がいらっしゃいます。様々な人が地域で心地よく交流し社会参加できるように設備や心のバリアを少しずつ取り除いていきたいです。 ###Profile 加藤さくら かとう・さくら 永峰玲子 ながみね・れいこ 一般社団法人mogmog engine共同代表、噛む力・飲み込む力が未発達および弱い摂食嚥下障害がある子どもとその家族のコミュニティ『スナック都ろ美(とろみ)』運営、フード&サービス開発などを主な事業とし、食を通してインクルーシブな世の中を創ることを目的としています。 加藤さくら:娘の疾患は福山型先天性筋ジストロフィー。著書『障害のある子が生まれても。』(A-Works)、『えがおの宝物 進行する病気の娘が教えてくれた「人生で一番大切なこと」』(光文社)、永峰玲子:娘の疾患は大田原症候群。 周りの人が最初から無理と決めつけるのではなく、本人の可能性を信じて応援してあげることの大切さを痛感しています。関わってくれる全ての人が子どもの成長を一緒に喜んでくれるチーム感も嬉しいです。好きなこと、本人のやりたいことを見つけるためにもこれからも新しいことに挑戦させてあげたいです。 〔参照:スナック都ろ美(とろみ)https://snack-toromi.com/〕