【237ページ】 ##おわりに 難病者の社会参加を考える研究会 発起人 重光 喬之 前回の白書を発行した2021年当時よりも、難病を取り巻く社会の状況は進展しているように思います。医療の進展に加え、テクノロジーの発達や多様な働き方の広がりが、難病者の社会参加を後押ししていると難病のある仲間と働きながら日々実感しています。「難病と就労」のテーマでも、民間や自治体での先進事例が生まれ、昨冬から厚労省でも本格的な検討が始まりました。また、メディアでも、難病者が働く意欲を持っていることや、病気とともに働く姿が少しずつ取り上げられるようになってきました。   一方で、障害者雇用が充足していない社会において、障害者手帳を持たない難病者の採用は、雇用者側にとってはハードルが高い状況が続いています。たとえ、管理職や人事担当が前向きでも、会社として雇用率を達成していないのに、手帳未所持の難病者を雇うことは社内で説明しづらい現実があります。また、実際に一緒に働くとなると、病名も症状も千差万別な難病に対し、「間違った対応をしてはいけない」という不安から、採用や配置に慎重になってしまう気持ちも理解できます。 私たちの調査からも、「難病の人は働けないのではないか」「任せられる仕事がないのでは」「サポートが必要では」「働かせて悪化させてしまうのでは」といった雇用側の懸念が見えてきました。被雇用者の側も、「自分の病気を理解してほしい」という思いが強くなるのも分かります。私自身も、発病から20年経った今なお症状と付き合いながら働く中で、仲間に病気や痛みを理解してほしいと思うことが多々あります。   難病と就労を巡る課題はいくつもありますが、私たちは「難病へのイメージと実態の乖離」こそが、最大の障壁であると考えます。難病者の中には働きたい人は多く、実際に働いている人も少なくありません。そうした姿を知ってもらい、仲間として共に働く機会が広がることで、雇う側・雇われる側、難病がある・ないの双方にある不安は、少しずつ和らいでいくはずです。 難病の当事者が、難病になって「生きる・働く」ことが初めてなように、雇用者や同僚も、難病者と共に働くのが初めてかもしれません。そして、それは誰もが何かしらの事情を抱えながら働いているという意味では、変わらないのではないでしょうか。お互い様の気持ちで、失敗がありながらも試行錯誤を重ねることで、社会は少しずつ進んでいける。近い将来、”難病者のはたらく”は、当たり前になっているはずだと私たちは考えます。   本白書は「社会参加」をテーマに据えていますが、制作の過程で当事者や関係者から多く寄せられたのが、「働くこと」への思いや葛藤でした。そのため、本書の内容は就労に関する話題が多くを占める構成となっていますが、私たちは「働くこと」だけが社会参加のカタチとは考えていません。 病気と生涯付き合うことになっても、人生は続きます。患者としてだけではなく、まだ見ぬ出会いや学び、異なる価値観の発見、その時々の喜怒哀楽を感じ生きていくのだと思います。   人は社会と関わり、社会の中で生きていく、これまで働くことがその大半を占めてきたのではないでしょうか。 同時に、働きたくても働けない方、働くタイミングではない方、ある日突然病気となり終わりのない症状に葛藤し折り合いを付けようとしている方などそれぞれの事情もあります。また、社会においてAIの役割が急速に広がるなか、私たちは“AI以前”の働き方を無理に再現するのではなく、病気や制約があるからこそ見えてくる新しい価値や楽しみ方を探っていけるのではないでしょうか。 本白書が、そのような社会に少し早くたどり着く一助になれば幸いです。