イベント&レポート

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人間の個性は、人それぞれ。障害も個性のひとつだと実感しました。

障害について知らないままでも
生きていけると思う。
でも、知ったら豊かになれる。
イベントに参加して、そう思いました。

kiyooka_1文化人類学を専攻する、大学4年生の清岡さん。人と人との関係性や、コミュニティにおける人の変化に興味があり、心理学から社会学まで幅広く学べる文化人類学を志した。そんな清岡さんがりょういくイベントに参加し、一体どんなことを感じたのか、お話を伺った。

障害者への支援は、専門家がやるべきだと思っていた。

「小学生の頃、障害をもつ同級生がいました。いつも泣いていることが多く、どう接したら良いか分からなくて。その子のことが何も分からないまま、卒業してしまいました。そういった経験から、障害者への支援は特別なもの。専門家がやるのが良いのだと思っていました」。

NPO法人両育わーるどの代表・重光に誘われたのがきっかけとなり、清岡さんはりょういくイベント(NPO法人ふみ月の会が毎月第二第四土曜日に行っている集団指導へのボランティア)に参加した。
「福祉現場のコミュニティに興味をもったんです。重光さん自身も、そのコミュニティに身を置いたことや、そこで様々な人と共に過ごしたことで大きな変化があったのだろうと思い、参加してみたくなりました」。

 優しくすべきか、厳しくすべきか。戸惑うことが多かった。

「療育について調べたり、事前準備をせず参加しました。現場に行ってからも、職員さんから細かい説明を受けることはありませんでした。最初は戸惑いましたが、今思えば知識から入らなかったおかげで、自分なりに考えることができたと思います」。

「担当した子が、最初の1時間ぐらいまったく顔を見てくれないし、話も聞いてくれない。手を振り払われた時は、どうしようかと思いました。でも、なんとかしてその子の視界に入ろうと思ったんです。『うるさいな、こいつ』と思われていたかも(笑)。質よりも量で接点をつくっていきました」。
「優しくするほうがいいのか、厳しくするべきなのか。信頼関係を築こうと気負っていたけど、だんだん気を使わなくなっていきました。次第に、言いたいことを言うというコミュニケーションに変わっていきました」
戸惑いつつも、コミュニケーションを諦めなかった清岡さん。次第に、子どもとの関係が変化していくのを感じたという。
「風船でふざけて遊んだことをきっかけに、信頼関係が生まれた気がします。だんだん、その子からアプローチしてくれるようになったのがうれしくて。一緒になにかをすることで、信頼関係を築けるんだと知りました。でも、やっと信頼関係ができたと思ったら、また離れてしまったり。最後まで、本当に伝わっているのかどうか不安でした」。

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 「オタク」も「障害」も、個性のひとつ。

イベントに参加することで、障害をもつ子どもとの関わり方を学びたいと思っていた清岡さん。参加後は、その入り口に立った達成感や充実感を感じたそうだ。ただ、その奥の深さにも気がついたという。

「担当した子と信頼関係を築けたとしても、すべての障害について分かったわけじゃない。何かを語ろうとしても、まだしっくりこなくてもやもやします。とにかくいろんな子がいるんだと知りました。重度の障害をもつ子が、机に頭をぶつけているのを見て、とっさに見ないふりをしたことも。でも、障害について、ほんの少しイメージできるようになったと思います」。
「オタクと呼ばれる人と話したことがあるのですが、実際に会話をすると普通なんです。自分と同じ人間で、何も変わらない。突出して好きなものがあるというだけ。障害の有無も、それと似ている気がします。あと、りょういくイベントでの経験は、デートにも似ているなと思いました。担当した子の言葉の奥にある思いを汲み取る、そんなやりとりを通して信頼関係を育んでいく感じが似てるんじゃないかな」。

 人間の個性は、グラデーションのように存在する。

りょういくイベントに参加したことで、人間関係について改めて考えるきっかけになったと言う清岡さん。
「健常と障害には、はっきりした線引きがあるのではなく、障害は個性のひとつだと実感できました。頭では分かっていたのですが、今回のイベントを通して自然にそう思えるようになりました。もちろん、障害の種類や重さなど、まだ知らないことが多いのですが……。人間のもつ様々な個性がグラデーション状に存在していて、障害をその一つとして捉えられるようになりました」。
また、職員さんが子ども達を叱咤激励し、自分でやるように促していたのが意外だったという。
「初めて職員さんがきびしく注意したのを見た時、びっくりして、怖いと感じました。でも、職員さんが子どもたちの自主性を引き出すような接し方をしているのを見て、福祉現場のイメージがガラリと変わりましたね。僕自身も、担当の子に強めに言った時があったのですが、その子がなにか感じていることが伝わりました。以前から、障害があってもなくても同じ人間だと思っていましたが、どこかで腰が引けていたのかもしれません。実際に関わったことで、普通に接したらいいのだと心から思えました」

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障害について知ったら、豊かに生きられると思う。

「また参加したいと思いますか?」「友達を誘いたいと思いますか?」と尋ねたところ、清岡さんはこう答えてくれた。
「イベントの後、いろいろ考えました。そして、まだわからないことがあるから、もう一度やってみたいと思いました。就職活動であまり苦労せず、すんなり通ってしまうタイプの友人が多いのですが、彼らがりょういくイベントに参加したら、いつもと違ってうまくいかないことを体験し、何かを考えるきっかけになるんじゃないかな。障害について、知らないままでも生きていけるとは思います。でも、知ったら豊かになれる。そう思うんです」。
文化人類学を学ぶ清岡さんは、人間関係やコミュニティについて、いろんな知識をもっている。そんな清岡さんも、りょういくイベントを通していろんなことを体験し、感じたのではないだろうか。「僕は人が好きなんです」と優しい笑顔を浮かべる清岡さん。その笑顔に、より一層深みが増したような気がした。

 

 

2013/12/7 第35回調布市福祉まつりボランティア
2014/1/25 Text:界外亜由美