異業種からの福祉だから、見える世界があった
異業種からの福祉だから、見える世界があった
普段は成人の福祉施設で働いているAさんは、児童福祉施設のボランティアをはじめて2年になります。既に福祉現場のプロとして長いAさんが、なぜボランティアに行くことにしたのか。そこでの気づきとご自身の変化についてうかがいました。
興味がなかった福祉分野で、健常者も障害者も変わらないという気づきを得た。
福祉業界に入った動機はなんだったんですか?
もともとバスケットと陸上をやっていて、スポーツ系。体育大学に行ってたんだけど自由奔放な生活をしてたの。当時はバブルで就職はいくらでもあった時代だから、車関係の企業に入れて、まぁまぁ楽しい日々を送ってたんだけど、年齢を重ねていくうちに思うところあって、教員の資格を活かした仕事に就きたいと考えるようになって。そんなときに、たまたま障害のある人がバスケットをしてるポスターで、特別支援学校の教員の募集をしてるのを見かけたの。福祉の分野には興味がなかったんだけど、スポーツ関係で現場にいられることと、仕事以外の好きなこともできるというのが転職の条件だったから、「ずっとやってきたスポーツが続けられたら楽しいかな」というぐらいの軽い気持ちで応募してみた。結局教員にはなれなかったんだけど、福祉業界には入ったね。
異業種からの転職はどうでしたか?
当時は男性が洗濯をしたり食事の準備をするのすら嫌だったから、まずそれに驚いて、「明日には辞めてやる」という日々が1年ぐらい続いたかな。でもその後は「やるなら徹底的にやる」という性格のせいか、気がついたら福祉業界に入って20年経ったね。この業界でも、スポーツの経験や、前職のノウハウや「実践こそすべて」というマインドは、すごく役に立ってるよ。想いとか情熱は必要なんだけど、実践して形にして数字を出して、だめだったら改善することが大切。それは、福祉のバックグラウンドを持っていない俺だから言えることなのかもしれないけど。
福祉業界に入られて、どんなところがご自身で一番変わったと思いますか?
「世の中にはいろんな人種や、いろんな障害をもっている人がたくさんいる。だからといって我々と変わらない。同じ人間だ」ということに気づいた。「平等」や「ノーマライゼーション」という言葉は、世の中の人がやってないから存在するのであって、本来そういう言葉は必要ないはず。障害がある人は、人から壁を作られてもしょうがないと思いながら生きている人が多い。でも健常者だって、容姿や体型や性格を気にして生きている。人はみんなそれぞれに一生懸命生きていて、どれがあって悪いわけでもない。自分のことを自分でどう理解して、自分で向き合っていくかだけだと思う。俺が学生時代に奔放にしてたから、今こんな話をするとみんなびっくりするね。でもバスケットでもなんでも、ずっとエースで居続けることはできなくて、年齢と共に立場や役割は変わっていく。それを受け入れることで変われたと思う。障害や疾病にしても、変えられるものと変えられないもの、治せるものと治せないものがあるけれど、人は自分がやりたいことはどんなことをしてでもやるし、自分が任されたらうれしいからやり遂げられる。自分に自信をもてば、人は誰でも変われると思っている。だから、その人が自信持てるような支援をしたいと思ってる。
仕事じゃない子供たちとの触れ合いが、純粋に楽しい。
すでに長年キャリアを積まれていて、なぜ児童福祉施設で子供の支援をしようと思ったんですか?
たまたま児童施設の所長から「一回来てみて」と言われて。そこの施設を卒業した人がうちに来てたのと、うちの作業所でもボランティアさんを募集してるから参考になるんじゃないかというのがあった。自分自身が、ボランティアさんの視点には立ったことがないなと気づいて、一度体験してみようと思った。成人向けは仕事で普段してるから、子供がよかったんだよね。
今まで2年ボランティアを続けている理由はなんですか?
2ヶ月に1回ぐらいだけど、続けられてるのは、仕事じゃないから責任がないっていうことが、たぶん一番大きいと思う。同じ福祉の現場ということで、ついつい全体の運営が気になっちゃうんだけど、なるべく見ないように気をつけてる。そこのスタッフが判断して仕事を進めてるから。最初はその場で急に「これはこうじゃない?」って言ったけど、最近は意識して言わないようにするか、終わってから言うようになった。そこは変わったな。
楽しいと感じるのはどんなところですか?
たくさんの人を見なくていいこと。一人か二人だけを見ていてよくて、他の人を見なくても何にも言われないのは、普段の仕事の責任を考えるとすごく楽なこと。リラックスできる場であり、空間であるかな。大変なときもあるけど、やっぱり笑ったときとか、声をかけてくれたりするような、子供たちの素直な反応が楽しいし、和む。やっぱり現場が好きだし、楽しくやらせてもらってる。特に去年のクリスマス会は楽しかったな。子供たちと準備をして、飾りつけして、ケーキを作って。中には、包丁を扱うのが難しい子や火を怖がる子もいるけど、一人ひとりと一緒にチャレンジできたのはよかった。サンタクロースに扮して、子供たちへプレゼントを配ったりするのは、子供たちはもちろん大喜びだったし、自分自身もすごく楽しかったよ。
受け入れ側として、ボランティアで現場に入られて学んだことはなんですか?
ボランティアさんにすごく丁寧なところ。受け入れの仕方から、帰りの反省会まで。あそこまで時間をかけているところは少ないかな。それとスタッフがボランティアさんに役割を与えて、相手を見て小まめなケアをしている。なかなかできることじゃないと思う。そういうところも魅力で通い続けている。
福祉やボランティアは、「すごいこと」ではない。
このサイトを見ている「ボランティアに行ってみようかな」とか、「ちょっと関心あるな」という方に、メッセージをお願いします。
ボランティアも福祉業界で働くのも、すごいことではないのよ。今は、福祉現場のイメージがあまりよくない、という固定観念があるんだと思う。そこのイメージは、我々現場からも情報発信をどんどんして変えていかなきゃいけないところだと思うし、もちろん環境の改善も重要だと思ってる。その世界を知ろうとするとか、自分が楽しもうとすれば、いろんなことが開けてくるから。もしも時間ができて、障害について考えるようになったきっかけがあるのならチャレンジしてみてほしい。「ボランティアをしよう!」と身構えるんじゃなくて、周りの情報よりも、自分の目で見て感じてほしい。
14/12/27 クリスマス会
text by 舟之川聖子
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業