自分の行動を工夫すれば、相手の行動も変わっていく
自分の行動を工夫すれば
相手の行動も変わっていく
以前にもりょういくのボランティアに参加した清岡大智さんが再登場。前回は学生の時に体験し、今回は新社会人となってからの初めてのボランティアだったそう。なにか変化はあったのでしょうか。そこで得た気づきについて伺いました。
ボランティア当日のことについて教えてください。
僕はゆうきちゃんという子とお祭りに参加しました。調布駅そばで開かれた模擬店や催し物などが集まる大きなお祭りです。ペアを組んだゆうきちゃんは12歳の中学1年生の女の子です。障害の程度としては、中度ぐらいでしょうか。活発で人と関わりを持ちたいと思っている明るい子です。初めてボランティアに参加したときに会って、今回で2度目です。お祭りにはふみ月の会も出店していたので、僕たちもバザーの売り子をやりました。僕がお客さんに「安いですよ」と呼び込みをすれば、ゆうきちゃんも真似して「安いですよー」と声をかけたり。お客さんから500円を預かって「おつりは300円だよ」と伝えると、お客さんへ300円をちゃんと渡していました。間違えるときもありましたが、そこは僕が回収していきました。数字もちゃんと把握していましたね。
ゆうきちゃんと一緒になるのは2度目とのことですが、前回との差はありましたか?
僕のことは覚えてはくれていたと思いますが、特に変わったところはなかったです。前回僕に慣れてくれるまで時間がかかって。仲良くなってもゆうきちゃんは結構ツンデレで(笑)、すぐ遠くに行ってしまったりしましたね。今回、僕が遅れて参加したら、ゆうきちゃんが怒ってしまい、最初あまり口を聞いてもらえませんでした(笑)。マイナスからのスタートで、そこから関係性を構築するのに1時間半ぐらいかかりましたね。
当日印象に残ったことはありますか。
覚えていてくれたと思ったのに、またゼロから関係を構築することになり、最初は話しかけても「やだやだ」という反応だけだったんです。ゆうきちゃんの考えや行動は変わらないと思うので、どう接したらゆうきちゃんが理解してくれるんだろうか、ということにフォーカスしました。彼女を変えるのではなく、自分がどう行動するか。例えば僕の携帯をちょっといじらせて関係性を作ってみたり、自分の行動を変えるとそれに付随してゆうきちゃんの態度や振る舞いも変わってきました。日常生活では他人同士でもお互いに相手のペースに合わせることはできますが、障害のある子に「こうして」「ああして」と言っても自分の思い通りにはなりません。相手の反応に一喜一憂するのではなく、自分で変えられることに焦点を当てて、ちょっとずつゆうきちゃんに認めてもらうようにしていく。そのことを実感できたのが、一番印象に残っています。
マニュアルはなし!考える力を養われる現場
拒絶されるのはちょっとハードルが高いような気がしますね。ボランティア経験がなくても誰でもできるものですか?
僕はボランティアに参加する気も興味もありませんでした。大学4年のときに「両育わーるど」代表の重光さんと出会って、ボランティアをやってみたいと思いました。重光さんと話した印象で、ボランティアは誰がやってもいいんだ、と敷居の高さを感じなかったんです。その後、「りょういく」サイトのイタンビュアーなどでインターンをはじめて、行けるときにボランティアに参加しています。
最初に参加したときは、アプローチの仕方が全然わからないので「なんだこれは?」と困りました。ほぼ説明もなく、放任されたので。なので、初めて参加される方はちょっとビックリするかもしれません。スタッフの方が担当する子を紹介してくださって、関係性を築くのですが、それも数分。最後までちゃんとできたのかよくわかりません(笑)。ここのボランティアにはマニュアルがないんです。どう行動すべきか自分で考えなければいけません。担当する子の障害の程度によって、関係性も変わります。だから、担当する子に合った接し方を自分で考える力が身につくと思います。
ちょっと難しいようにも感じますが、友だちや知人にもボランティアを勧めてみたいと思いますか?
ぜひ体験してほしいです。「人は変えられない」ということを明確に体験できるいいチャンスだと思います。今回の場合でいうと、列に並んでいるときにゆうきちゃんが横入りをしようとするんですね。後に並ぼうと言っても言うことを聞いてくれません。健常者なら言えば後に行ってくれるかもしれませんが、ゆうきちゃんはずっとそこに座ってしまう。どういう風に伝えれば後に並んでくれるか、想像します。ちょっかいを出して気を引いて、後の方に連れていくという方法を考えてみたり。ゆうきちゃんは頭ではわかっているので、あまり言い過ぎると反抗的になってしまうんです。後に並ぼうと伝えつつ、遊びながら、忍耐強く待つ。最終的には彼女の方が折れて自分から列に並んでくれました。「人は変えられない」けれど、自分の行動を工夫すれば、相手の行動も変わります。目的意識を持って参加すると、結構学びがあるんじゃないでしょうか。
「自分の行動を工夫する」というのは、なにかできそうな気がします。なぜゆうきちゃんは自分から列に並んでくれたんでしょうか。
ゆうきちゃんは、売り子をやっていて疲れたり、うまくいかないときはふてくされてその場に座ってしまうんですね。一度座ってしまうとダメ。そういうときは無理に立たせず、ひたすら待ちます。ゆうきちゃんの分も僕が代わりに売り子をやって、黙々と働く姿を見せました。列に並んでいたときも「僕ももうあきらめてこのまま横入りしちゃおうかな」と思ったんです。でも、僕の行動を見てゆうきちゃんが変わるかもしれない、と信じてみました。時間はかかりましたけど、結果的にゆうきちゃんが自主的に並んでくれたのは嬉しかったです。結局、自分が動いて僕の背中を見て感じてもらうことしかできないのかもしれません。
待つことで、清岡さんの気持ちが伝わったのでしょうか?
実際のところはわかりません。待つのは苦手ですし、実際にやってみてとても疲れました(笑)。でも「相手は変わらない」と割り切って参加すれば、いちいちイライラしません。そういうものだと思って本人に刺激を与えて、本人がなにを選択するか。僕の行動に対してどう反応するか、多分、ゆうきちゃんを変えようと思って参加したらダメだったと思います。どんなリアクションをしてくれるのかな?と楽しんで参加するのが一番です。障害があっても健常者でも、一緒に作業をすることで、お互いに主体性を育てることができると思います。またぜひ参加したいですね。
2014/5/11 調布市親子まつり
Text:四街道ふみ
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業