シブヤ大学「ここがヘンだよ!障害者雇用〜私の就活体験談」レポート
シブヤ大学「ここがヘンだよ!障害者雇用〜私の就活体験談」レポート
先日の11月4日、シブヤ大学でのコーディネートのもと、学生インターンである私、白石が「先生」として「授業」を行なってきました。
シブヤ大学の授業レポートに入る前に少し自己紹介させてください。
両腕のない“普通の”子ども
私は今、社会福祉学を専攻する大学院生をしています。
私は両腕に障害をもって生まれました。幼い頃から腕がないことは当たり前だと思っていて、腕の有無を全く気にせず生きてきました。やりたいことはやるし、友達と遊ぶし、少女マンガも好きでした。将来の夢も「漫画家になりたい」とか「英語を使っ
て海外でカッコよく仕事をしたい」とか、きっと他の子と変わらないような夢を持っていたように思います。今思えばすごく能天気な子どもだったかもしれません(笑)。
それゆえに、周囲の大人から、障害をもつ私に福祉の道(進路)を勧められることがとても嫌でした。「障害者=福祉」と安易に結び付けてほしくなかったのです。さらに、当時は「福祉=介護」と思っていて、自分には無理だと思っていました。しかし、福祉は介護だけではなく行政や一般企業などのフィールドでも福祉分野に関わることができると知り、最終的には大学の社会福祉学科に進むことに決めました。
障害をもつ人のことを知っているか?
大学生になってしばらくして、新型出生前診断の実施が大きく報道され、ドキュメンタリー番組を観て初めて知りました。医師や専門職が障害をもつ人の成長や生活について知らずに説明も十分ではないまま検査を行うこと、また、妊婦さんやその家族が障害をもつ子どもについて知らないまま産むか産まないかの決断を下す姿に、とても違和感を覚えました。命の行方を左右する大事な場面で、情報の量があまりにも少ないと感じたのです。
「そういう場面になるもっと前に、障害をもつ人のことを知る機会をもっと増やせないだろうか―」。このような思いが湧き上がり、まずは自分が障害をもつ当事者として、社会に出て発信していこうと心に決めました。そこから、いくつかのNPOでインターンに参加し、THINK UNIVERSALポスターのモデルになったことをきっかけに、両育にかかわることになりました。
ただ、今年に入り就職活動に直面し、「障害をもつ人のことを知らせていきたい」という強い思いは、仕事に結びつくのか?と悩むようになりました。両立させてやるという思いと、不安な気持ちが混ざり合っていました。それだけではなく、自らの障害のことも考えなければなりませんでした。
今回は、そんな私の就活体験談についてお話しした、シブヤ大学での授業についてレポートしたいと思います。
シブヤ大学とは
シブヤ大学は、「誰でも先生になれる、誰でも生徒になれる」をキーワードに、街全体をキャンパスに見立てて、あらゆる場所で「授業」を提供しています。「授業」を通して、同じ興味関心をもつ「学生」同士の出会いの場やネットワークづくりのきっかけを提供し、それらを通して渋谷の街全体の活性化を目指して活動しているNPOです。
詳しくはhttp://www.shibuya-univ.net
歩んできた道のりを語る
話題から少しそれますが、先日、精神障害のある当事者との出会いがありました。その方が「リカバリーストーリー」、いわゆる発病から今に至るまでの物語を発表されるとのことで、私はその練習に立ち会わせてもらうことができました。
練習が終わった後、リカバリーストーリーを語った後の変化について伺うと、「自分の人生を振り返ることができて、自分の人生への認識が整理されるんだよ」(ニュアンスでそんな感じの事)とおっしゃっていたことが強く印象に残りました。
私自身も、(生まれつき)上肢障害をもつ身として、さまざまな場面でお話しさせていただく機会をいただきましたが、話を聴いてくれる人に何を持って帰ってもらうかをウンウン唸りながら考えていたので、自分自身にも変化が及ぶとはまさに目からウロコでした。
当日の流れ~生い立ちと就活経験談
当日は、私の生い立ちと就活での経験の2本立てでお話させていただきました。生い立ちでは、小中高・大学での生活、特に障害をもつ私がどのように生活してきたか、そして今の私の軸となる「障害のない人に、障害のある人のことを少しでも知ってほしい」という思いに至った背景をメインにお話ししました。
例えば、学校生活では“障害”を意識することがほとんどありませんでした。それは学校の先生方と家族の間で定期的な話し合いのもと、生活しやすいように様々な工夫を施していただいたことはとても大きかったと感じています。会場ではお話しできませんでしたが、水道の蛇口の改造や、トイレの介助などもお願いしていました。
友人とのかかわりの中でも、障害をもっているからという理由で友人関係が崩れたことはありませんでした。(これはきっと理解のある友人たちのおかげだと思います。)
しかし一方で、進学して社会との接点が増えるにつれて、自分が障害者であることを強く意識させられる場面が多くなりました。それは物理的な環境のせいではなく、常に障害を“カミングアウト”しなければならないこと、周囲の目が私を「障害者」として見ていたことがあったこと…などをお話ししました。
また、就活の経験では、(イヤになってしまった)ハローワークでの出来事、そこからの方向転換、内定に至るまでのこと、障害をもつ私が就職活動する中で感じた社会側の課題についてお話ししました。
特にハローワークとのかかわりは、とても悩むものでした。キャリアカウンセラーによる伴走的で密な支援がありがたく思う一方で、「早く、早く」と急かされる空気が私自身のペースを完全に失わせてしまいました。今まで自分のペースで成し遂げてきたという自信をも無くしかけてしまったのです。
ただ、ラッキーなことに私の周りにはさまざまな背景を持つ知人がいたおかげで、さまざまな選択肢を再認識することができ、ハローワークとの距離の取り方にとどまらず、「多様な働き方・社会への貢献の仕方がある」ということを柔軟に考えられるようになりました。
自分がやってきた就活に自信が持てなかった
先に述べたような紆余曲折がありながらも、なんとか内定を頂くことができましたが、私は一生懸命就活をしたのだろうかと思うようになり、自分の就活に自信が持てませんでした。正直に言えば、私自身、エントリーした会社の数や会社説明会に行った回数は一桁でした。それは、私自身がかかわりたいこと、目指したいこと、成し遂げたいことをやれる環境、会社が持つビジョンなど、色々見て考えた結果ではありましたが、他の学生と比べると私は大した就活をしていなかったのではないか、とそんなことを考えていました。
誤解を受けないように補足しておきますが、内定を頂いた会社はとても素敵なところで満足している!ということは付け加えておきます(笑)。
様々なことを経験した自分への気付き
今回、初めて「講師」をしてみて気づいたことが2つあります。
1つは、私自身が常日頃から働くことについて考えていたことに気づけたこと。
私自身も、今回のシブヤ大学の講師として授業をしてみて、まさに上で述べた精神障害の方と同じことが起こりました。
パワポ(原稿)を作っていく中で、自分の今までの道のり、就活に至るまでの経緯を文字化していったら、その当時もいろいろな事を考えていたことに気づきました。
文部科学省でのインターン、社会福祉士の実習、さまざまなNPOとの出会いなど、様々な場所に出向き、今まで出会わなかったような人と出会い、新しい考え方を得、思いを巡らせてきたことに気づかせてくれました。そして、私が選んだ少数精鋭の選択肢は、決して、大した就活をしなかったわけではなく、この何回もの思いの巡りがあったからこそのものだったのだということに気づけたのは大きな収穫だったと感じます。2つ目は、障害をもつ人と障害のない人が一緒に働くことは、障害のない人同士で働くことにも通じるのではないかということ。
参加者の皆さんによるディスカッションの中で、障害をもつ人ともたない人が共に働くには「コミュニケーションが重要になるのではないか」と発表されていて、それって障害のない人たちにとっても大事なことなのでは、と感じました。例えば、子育て中の人や介護をしている人、国籍、人種、宗教、地域…さまざまな背景を持つ人たちも同じです。
障害のある人は、自分にとってパーソナルな部分、例えば身体的な事情は話さざるを得ないし、自己開示しなければなりません。そしてそれを障害のない人達は受け止める必要があるし、自分たちがどこまでサポートできるかも把握して開示しなければ、ともに働くことは難しいでしょう。そのような対話が積み重なって、コミュニケーションになっていくし、それがお互いを労わることになり、ひいては信頼関係の構築にもつながるのではないかと感じました。それはある意味で、職場にとってはプラスになるはずです。
周りの人に「君の就活での経験は面白いから発信してみれば」と言ってもらい、最初は「私の就活経験に価値なんてない」と思っていましたが、多少なりとも今までの就活の経験に価値を見いだすことができたと思います。
参加者の皆さんが一生懸命議論している姿を見て、アイデアやきっかけを持って帰ってもらって、それだけで十分やった甲斐がありました。
授業に参加してくださった方々、全面的にバックアップしてくださった方々には感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
「障がい者×雇用・仕事」の授業を継続的にやってほしいというお声もあったので、また先生になる…かも?(笑)
当日の様子はシブヤ大学のレポートをご覧ください。
text by マッスー