子供たちの将来のため、時には厳しく叱ることのできる支援者になりたい
子供たちの将来のため、
時には厳しく叱ることのできる
支援者になりたい
大学4年生の仲詩織さんは、来春から調布市で放課後等デイサービスを行うふみ月の会への就職が決まっています。ふみ月の会に顔を出すようになって数カ月。ボランティアからスタートして今はアルバイトとして活躍している仲さんに、子供への支援を通して自身の変化や今後の目標を伺いました。
子供は大人の心を敏感に見抜くので、
表面的な言葉は伝わりません
仲さんは以前、ボランティアとしてレポートに登場されていましたが、今はアルバイトとして活躍されているそうですね。
もともと、採用面接をきっかけにボランティアをはじめたんです。当時、福祉関係の施設を中心に就職活動をしていたのですが、障害をもつ子供を対象にした支援施設は人気があるので、倍率がとても高くて。最初は障害をもつ大人向けの施設で経験を積むのもいいかなと思っていたのですが、学校の掲示板でふみ月の会の求人を見つけて、「これだ!」と思い応募したんです。内定をいただいてからは、アルバイトとして働いています。今は職員さんについていく形で参加していますが、社員になったら子供たちをまとめていく立場になります。アルバイトをしている間に、みんなを引っ張っていく力を付けなければと感じていますね。私が何度言っても伝わらないのに、所長さんや主任さんが一声かけると子供たちがスッと動き出すことがよくあるんです。おふたりと子供たちの間には、深い信頼関係があるんですよね。信頼関係を築くためには、とにかく子供たちと接するしかありません。多くの時間を使って少しずつ信頼を積み上げて、「仲さん」という人間をしっかり認識してもらいたいし、私も一人ひとりの子供たちをもっと知りたい。そんな風に感じながら過ごしています。
ボランティアやアルバイトをはじめてから数カ月経ちましたが、なにかご自身の中で変化したことはありますか。
Nさんという小学校低学年の女の子がいるのですが、車で送迎していた時、私を試すように窓から手を出したんです。すぐ叱ったのですが、どこまで伝わったのか正直なところよく分かりません。他にも、扇風機に手を入れたがったり、道路に飛び出したり。何度もそういった場面を経験して、危ないことをした時はきちんと叱らなければいけないと強く思うようになりました。私は怒りの感情を表すことが何よりも苦手なので、「残念だなー」くらいで軽く済ませることが多かったんです。最近は意識して叱るようにしているのですが、いざ叱ろうとすると言葉が出てこないんですよね。子供たちは大人のことをとても敏感に見抜くので、表面的な言葉や態度はすぐにバレます。「仲さんだったら、ちょっとくらい悪いことをしても大丈夫」と思われたりしないように、毅然とした態度を取らないといけないんです。一体どんな言葉なら、子供たちにいけないことだと伝わるのか。いつも試行錯誤しています。
子供を泣かせてしまった……
落ち込んだけれど、大切ことが見えてきました
仲さんは福祉関係の大学で学んでいるとお聞きしました。どうして福祉や障害に関心をもつようになったのでしょうか。
正確には心理学部なので、福祉系の学部ではないんです。福祉に関心をもつようになったのは、大学のボランティアサークルで知的障害を抱えている方と接したり、実習で発達障害の子供たちの療育グループに入ってからなんです。中学や高校の頃から校内に特別支援学級があったので、障害を特別視してはいませんでした。ただ、彼らと深く関わることもありませんでした。大学のサークル活動や実習を通して、障害をもつ人たちとしっかり向き合った時、障害者も健常者も同じ人間なんだと改めて感じたんです。楽しい時は笑うし、イヤなことはイヤだと言う。悲しい時は泣く。想像以上に感情豊かなことにも気がつきました。そういった経験を通して、同じ人間としてきちんと接したいと思うようになったんです。
ボランティアサークルや実習で特に印象に残っていることを教えてください。
実習で発達障害の子供たちに関わった時のことです。幼稚園に通う3歳と6歳を対象にしている療育グループでした。そこには思っていることをうまく言葉にすることができず、すぐ手が出てしまう子がいました。ところが、何度もグループに参加するうちに「それはイヤだ」とか、「これがしたい」と言語化できるようになったんです。最初は落ち着いて座ることもできなかったのに、椅子に座って先生の話を聞けるようになった子もいました。自分たちのやっていることが子供たちに伝わり、結果につながる。とてもやりがいのある仕事だと感じました。その療育グループでは、子供がうまくできた時、身振り手振りをつけながら「すごい!できたね!!かっこいいお兄さんだね!!!」という風に、すごく大げさに褒めるんです。もちろん、いけないことをした時はきっちり叱ります。それはふみ月の会の職員さんも同じですね。短く簡潔に伝えることも、その療育グループで教わりました。例えば子供が寝転がってしまった時に、「寝ちゃだめだよ」ではなく「立って」と伝えるんです。相手がしている行動を否定するのではなく、相応しい行動を伝えると、子供はスムーズに動くことができるのだと教わりました。こういった子供への声かけ等は、今後も活かせると思っています。
ボランティアやアルバイトを通して、難しいと感じていることはありますか。
先ほどお話ししたNさんという小学校低学年の女の子は、とにかくじっとしていられないんです。自分に自信がもてなかったり、不安が強い面もあります。親御さんはそんなNさんのペースに合わせることが多いようです。そういった状況から、少しでも相手に合わせることができるようになるよう、私のペースに巻き込むような関わり方をしていました。するとある時、Nさんの不満が爆発してしまい、遊んでいたパズルをバーンと放り投げて泣き出してしまったんです。その瞬間、「やってしまった……」と思いましたね。私も泣きそうになりながら「ごめんね、仲さんが厳しく言いすぎたね」と謝ったら、所長さんが「Nさんの心に仲さんの思いがちゃんと届いたってことだから、何にも悪いことじゃないよ」と声をかけてくれたんです。所長さんにそう言ってもらえたことで、ホッとしました。その日のNさんは、「それが食べたいのでください」と言うなど、自分の意思を上手に表現できていました。いつもは恥ずかしくてモジモジして、なかなか言葉が出ないんです。こんなにうまく言葉が出ていたのは、この施設に来てはじめてのことだったかもしれません。それはある意味で、がんばりすぎている状態だったのかもしれませんね。そこに私がより一層の負担をかけたため、爆発してしまったのかもしれません。泣いているのを見たのもはじめてのことでした。「泣いているNさんを見て、人間らしい一面を感じられてうれしかったわ」と所長さんが言っていたのが印象的でした。障害をもつ子供の親御さんは、子供の気持ちを汲んで先回りすることが多いんです。もちろんそれは親御さんの愛情でもあるし、普段の生活をスムーズに進めるために必要なことも多いのですが、子供たちの将来を考えると自分で自分の思いを伝えられるようになってほしいですよね。それは難しいけれどとても大切なことだと感じています。
(重光/両育わーるど代表)この出来事はふみ月の会でもずいぶん話題になりました。「仲さんが自信を無くしているみたいだけど、本当はすごく良いことだったよね」って。ボランティアさんがこういったシーンに直面した時は、施設の職員がちゃんとフォローしたいねと話し合いました。
その日は職員さんがボランティアの方達にフィードバックを行う時間があり、その時にちゃんとフォローしていただいたので、ずいぶん心の負担は軽くなりました。それでも、当日はすごくヘコみました。1週間くらいはモヤモヤしていましたね(笑)。
惰性ではなく、いつも子供たちと
真剣に向き合う支援者になりたい
子供との信頼関係を築くためにはどんなことが大切だと思いますか。
子供の気持ちをちゃんと理解することでしょうか。ふみ月の会では、「○○ちゃんは今、こういう気持ちだと思うけど……」と、心情を汲み取って接することが多いんです。こういったアプローチはすごく新鮮だと感じましたね。ふみ月の職員さんと子供たちの関係を見ていると、職員さんが子供の気持ちをしっかり理解しているからこそ、深い信頼関係を築けているのだということがよく分かります。
職員さんはどうやって子供の思いを汲み取る力を身につけたのだと思いますか。
長年の経験がベースになっていると思います。子供の表情を読み取っているシーンもあるように思います。でも、どうやって身につければいいのか、まだハッキリと分からないんです。所長さんは、「長い間働いていたらこうなるわよ」と言っているのですが……(笑)。マニュアルがあるようなものではないので、感覚でしか理解できないことが多いのかもしません。そんな所長さんも、昔は厳しく叱ることができなかったと言っていました。ある時、熱した油を触ろうとする子供がいて、命の危険を感じたそうです。それからは、必要なときは厳しく叱ることもできるようになったそうです。主任さんはどちらかと言うと、厳しい印象の方です。よくやんちゃ坊主がカミナリを落とされていますね(笑)。主任さんがいるだけで、子供たちがビシッとします(笑)。どんな職員さんも経験を積めば褒めることも叱ることも上手になりますが、みんなが同じ指導をするのではなく、その人らしいキャラクターを活かしている気がします。子供もいろんなタイプの子がいるので、職員にもいろんな人がいたほうがいいですよね。できれば、男性の職員さんがもう少し増えると良いなと思っています。福祉の現場は男性が少ないのが課題ですね。
仲さんの今後の目標について聞かせてください。
子供の気持ちを汲み取る練習をしているのですが、なかなかうまくいきません。こういうことかなと思って声かけをするのですが、的外れだったりすることもあります。そんな時、職員さんが私とまったく違うこと伝えて、子供とうまく関係を築いているシーンを見ると、まだ子供の感情を見抜く力が足りないんだなと思います。まずはそこができるようになりたいですね。将来は所長さんや主任さんのように、子供と深い信頼関係を築けるようになりたいです。おふたりが声をかけたことによって、パニックになっていた子供が安心する姿を何度も見てきました。いずれは私の声かけでそうなってくれたら、すごくうれしいですね。そして、子供の気持ちが分かるようになっても、惰性ではなく、毎回一人ひとりの子供と真剣に向き合うことを忘れたくないと思っています。
障害児支援について、社会的にはどんな課題があると思いますか。
発達障害は目に見えない障害なので、きちんと理解されていないことが多いと思います。自閉症やダウン症といった名前を知っている人は多いのですが、誤解されていることも多いんです。それによって、差別につながることもあると思います。それを変えていくのは大変なことですが、現場から社会に向かってどんどん情報発信をしていきたいと思っています。
多くの方に障害について知ってもらうために、ボランティアに参加してもらいたいと思いますか。
そうですね。ボランティアに参加すると、確実に新しい自分を発見できると思うんです。言葉がまったく通じない子供にボディランゲージでコミュニケーションを取ったりするので、最初はすごく疲れると思います。でも、子供たちの笑顔を見たら、疲れも忘れてしまうぐらいうれしくなると思います。ずっと目を合わせてくれなかった子が、はじめて目を合わせて「さようなら」って言ってくれたとか。そんなちょっとした出来事に感動すると、人と関わる喜びを再確認できと思います。それは外国での一人旅に似ているかもしれません。言語も文化も違う場所で、いろいろ大変なことが多いけれど、わずかでも人と通じ合えると、体中でうれしさを感じることができますよね。子供たちにとっても、いろんな大人と関わることは大切な経験になります。家族や学校の先生や施設の職員等、慣れている人との関係の中では落ち着いていられるけれど、外に出るとパニックになる子供たちがたくさんいます。彼らもいずれ大人になれば社会に出ていろんな人と接していかなければなりません。子供たちの将来のために、少しずついろんな人と関わる練習をしてもらいたい。そのためには、施設にいろんな大人がボランティアに来てくれたらいいなと思うんです。
2014/7/12 陶芸作品作り
Text:界外亜由美
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業