障害に関わらず、誰もが困難を乗り越えた後、人間としての誇りを持てる。
障害に関わらず、
誰もが困難を乗り越えた後、
人間としての誇りを持てる。
「子供たちと一緒に過ごすことは、本当に楽しいんですよ。子供の役に立ちたいとか、社会貢献だなんて、一度も思ったことがないんです」。
障害をもつ子供と保護者に寄り添い、ともに歩んできた「ふみ月の会」施設長の朝香ちよみ(あさか・ちよみ)さん。約30年の間、どんなことを目指してやってきたのか、「ふみ月の会」の療育とはなにか。そして、今後どんな仲間と一緒に働きたいかについて、おいしいお茶をいただきながらお話をうかがいました。
児童養護施設で暮らす子供たちと出会い、
自分らしく過ごすことができた
障害をもつ子供に放課後等を利用した療育を行う「ふみ月の会」は、今年で33年目を迎えるそうですね。朝香さんが障害児教育に興味をもったきっかけは、何だったのでしょうか。
大学卒業後、将来なにをやるのか悩んでいた時に、「蟻の町のマリア」と呼ばれていた北原怜子(きたはら・さとこ)さんの本を読んだんです。北原さんは、廃品回収で生計を立てる人たちの住む「蟻の町(山谷)」に移り住み、彼らと一緒に汗を流して働き、生活し、助け合ってこられた社会奉仕家です。北原さんの生き方に触れ、「こういう共に生きるということが私にもできるだろうか……」と思ったのがこの道に進んだきっかけです。ちょうどその頃、ある児童養護施設から声をかけてもらい、住み込みで働くようになりました。児童養護施設は、保護者のいない子供や虐待などを理由に家庭で生活できない子供たちが暮らす施設です。継母が3人いるなど、私には想像もできない人生を歩んできた子供たちと一緒に過ごす中で、私は心から解放され、とても自分らしくいられると感じたんです。そして、児童福祉をライフワークとしてやっていこうと心に決めたのです。
児童福祉をライフワークにと決めた後、障害児を対象にした「ふみ月の会」をはじめられるまでの経緯を教えてください。
30歳の時、大学に入り直し、養護学校(現在は特別支援学校)教諭養成の専門課程を学びました。同時に、生活費のためのアルバイトとして、自閉症の4歳の男の子の支援をはじめたんです。大学卒業後、その子のお母さんから「他の子も一緒にみてもらえませんか」と相談を受けました。同じような障害をもつ親子の仲間がいるので、グループで見てほしいとのことでした。そして1982年に、「ふみ月の会」として放課後を利用した障害児のための施設をスタートしました。4名の利用者からはじまった「ふみ月の会」も、今では35名の利用者がいます。出会った頃、4歳だった自閉症の男の子は、40代になりました。子供たちの成長とともに、「ふみ月の会」もいろんな経験を重ね、成長してきました。親亡き後、障害をもつ子供たちができる限り幸せに、心豊かに生きられるように。その思いは、今も昔も変わっていません。
障害にも一人ひとり特徴があるので、
個別の目標を見極めることが重要です
「ふみ月の会」では、具体的にどんなことをやっているんですか。
現在、「ふみ月の会」では、小1から高3の子供を対象にした、放課後等デイサービスを行っています。障害をもつ子供たちは、親と一緒に生活している間は不自由なく生活することができますが、親が病気をしたり、亡くなってしまった場合、本人の希望とは関係なく施設に入居せざるを得ないかもしれません。障害をもつ子供の多くは、とてもナイーブで変化に弱いんです。小さな変化でも、不安や緊張でいっぱいになってしまいます。自閉症などの多くの障害に特有のこだわりを減らし、柔軟に対応する力を身につけることができたら、つらい気持ちを少しでも軽減できるはず。そのために、「ふみ月の会」では一人ひとりが目標をもち、挑戦することを大切にしています。
最近はマスコミ等で発達障害が取り上げられることが増えた気がします。療育という言葉を耳にすることもありますが、療育について具体的に教えてください。
そうですね、昔にくらべると「療育」という言葉がずいぶん身近になりました。ただ、ひと言で「療育」といっても、施設によっていろんな「療育」があるんです。「ふみ月の会」の特徴は「個別化」です。障害にもいろんな特性があり、ひとくくりにはできないので、一人ひとりの子供をしっかり見極めて対応しています。例えば、いつも無理をしてがんばってしまう子には、「ワガママを言っていいんだよ。自分のやりたいことをやっていいんだよ」と伝えます。反対に、落ち着きがなく感情を押さえることが難しい子には、「一生懸命“お兄さん”で座っていようね」と伝えます。子供によってまったく違うアプローチをしているのですが、今その子に必要なことを伝えるという意味では、一貫した指導をしているんです。
S君という小学生の自閉症の男の子は、駅前にあるショッピングセンターが苦手なんです。自閉症は強い刺激が苦手なので、明るすぎる照明や、ぎっしり並べられた商品が怖いのかもしれません。そこで、ショッピングセンターの中に入る練習をすることにしました。S君は、必死で入ることを拒みましたが、2人のスタッフが支えて中に入りました。周りの人の視線を痛いほど浴び、冷や汗を流しましたね。でも、中に入った瞬間、S君がニコッと笑ったんです。とても充実感のある表情で、できたという喜びがS君の中にあふれているようでした。次は犬に触ることに挑戦しました。最初は怖がっていましたが、S君の手が犬の額に少し触れた時、また少しにっこりしました。今では、小さな犬なら触ることができるようになったんです。こんな風に、小さなステップを積み重ねて成長する子供たちを見ると、本当にうれしい気持ちでいっぱいになりますね。
こういった指導は、端から見ると無茶なことをしているように見えるかもしれません。でも、毎日のように子供たちと一緒に過ごすスタッフが話し合い、考え尽くした上で目標を見極めているんです。S君が犬に挑戦したのは、将来ひとりで歩いて作業所に通うことができるようにとの思いから。今まで、犬が苦手な気持ちが強いため、一人で出かけることが難しかったんです。少しでも犬への苦手意識を克服できれば、自分でできる範囲が増えると考え、チャレンジすることに決めたんです。
犬に触れなかった子が触れられるようになるって、ものすごい成長ですね。子供たちが苦手なことに挑戦する中で、大切にしていることはありますか。
指導の上で最も大切なのは信頼関係です。信頼関係がなければ、どんな指導も意味がありません。スタッフは何よりもまず、子供たちに寄り添い、安心できる関係性を築くことを大切にしています。信頼できるスタッフがいれば、子供たちは本当にけなげに、前向きに挑戦するんです。そして、成し遂げた時は大きな喜びを感じることができるんです。それはどんなに重度の障害をもっていても同じです。30年以上の経験から、障害の有無にかかわらず、人間は誰もが誇りや喜びをもてることを確信しています。だから、障害があるからといって、困難なことに何一つ挑戦しないのはもったいないと思っているんです。
重度の障害をもっていても、挑戦し達成できる。
その可能性を信じられる人に会いたい
「ふみ月の会」では、どんな人がスタッフとして活躍できると思いますか?2015年6月に、新しい施設が増えるとお聞きしたのですが、どんな仲間と一緒にやっていきたいと考えていますか。
感受性が豊かで、いろんなことを客観視できる人ですね。言葉の不自由な子供が多いので、会話で事情を説明してくれないんです。そこは推し量ったり、想像力をもって考えるしかありません。「前はこうだったけど、今日のこれはどういうことかな」とか、「Aさんと関わる時はこうだけど、私と関わる時はこうだな」と想像し、いろんな感覚を総動員して子供たちと関わるんです。目に見えないものを見る、そんな感覚かもしれません。あと、ひとりよがりはいけませんね。自分がしてほしいことではなく、相手に必要なことを差し出すことが大切です。もちろん、最初から何もかもできる人はいませんから、変わっていくことができる人なら大丈夫。そういう意味では、子供から学ぶ謙虚さも大切かもしれません。子供って、本当にいろんなことを教えてくれます。指導する側だからといって、決して与えるばかりではないんですよ。
スタッフとして入職すると、最初はどんなことからはじめるのでしょうか。
まずは慣れてもらうことが大切です。最初は関わりやすい子供から関わってもらうので、安心してください。この子と相性が良さそうなだといった組み合わせも考慮します。それでも最初は話しかけても返事をしてくれなかったり、目も合わせてくれないことがあると思います。大人と違って、子供には社交辞令がありませんから、信頼関係のない人には心をひらいてくれません。時には子供が“悪魔”のように見えることもあるでしょう。でも、関わり続けていると挨拶をしてくれたり、微笑んでくれるなど、少しずつやり取りができるようになってきます。そういった変化が見られると、ものすごい喜びを感じると思います。そして、この仕事にやりがいを感じると思います。
朝香さんは、今後どんな仲間と一緒に「ふみ月の会」をやっていきたいと思いますか。
先ほども言いましたが、子供たちはどんなに重度の障害をもっていても、前向きに挑戦しようとします。ひとりではできなくて、誰かのフォローが必要なこともたくさんあるけれど、今いる場所より一歩でも前に進もうとするんです。そして、そこには充実感や達成感がちゃんとある。これは人間としての誇りだと思うんです。どんな重度の障害をもっていても、この誇りをもっているんです。そういうことを分かってくれるような人と一緒にやっていきたいと思っています。
子供と過ごす時間は本当に楽しくて、これで対価をいただいていいのかしらと思うくらい(笑)。でも、子供と関わることだけでなく、施設の運営や法律への対応など、大変なこともたくさんありますから、それでトントンですね(笑)。ボランティアとしても、これまでいろんな方が関わってくれましたが、長く続けてくれる方はみなさん「楽しい」と言っています。この「楽しさ」は、一般的な楽しさとはちょっと違うのかもしれません。時には大変なこと、難しいこともある。でも、いろんなことを知ったり、乗り越えて進んでいくことは、総じて「楽しい」ことなんだと思うんです。こんな風に「楽しい」と感じてもらえる方に出会える日を楽しみにしてます。
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【施設名】特定非営利活動法人 ふみ月の会
【募集職種】指導員
【雇用形態】正社員、非常勤、アルバイト
【勤務地】東京都調布市染地1-17-15、調布市多摩川5-24-18
【仕事内容】小学1年生~高校3年生までの障害児の自立を援助・実現するための療育及び放課後活動の支援及び送迎業務(児童福祉法下の放課後等デイサービスの提供)。その他法人運営に必要な書類作成や事務業務等。
(1)平日の活動
プールや音楽活動の他、ウォーキングやストレッチ、リズム体操等の運動、おやつ作り、ボランティアさんによる紙芝居や絵本の読み聞かせ、楽器弾き語り等、様々な活動を行います。また、季節の行事や誕生会、防災訓練、地域バザーに出展する自主製品の作成等を行います。
(2)第2、4土曜日の活動
ボランティアさんの協力を得ながら、地域バザーへの参加やハイキング、防災館地震体験、テーブルマナー学習、外食、掃除、洗濯、陶芸、味覚狩り、クリスマス会、コンサート、そば作り、親睦旅行等、様々な活動を行います。利用者との信頼関係を築くことを基本としながら、基本的生活習慣の獲得、ひとつひとつの課題に一生懸命取り組むこと等、利用者一人ひとりにあった目標をかかげ取り組みます。
(3)長期休みの活動
ハイキングや調理実習、買い物学習、創作活動等を行い、また、プールやその他の外出の際には、公共交通機関を使い、社会性を身につけながら取り組みます。また、夏休みには宿泊訓練を2回行い、ペンション等に泊まり日常生活と異なる環境の中で様々な事に取り組み、経験の幅を広げます。
(4)個別指導
一人ひとりの発達に応じた課題を設定し、家庭と連携をはかりながら取り組みます。物事に前向きに取り組む姿勢を作り、集中力、持続力を身につけ、新しいことや困難なことにも挑戦し認められる喜びを自信につなげます。また、基本的生活習慣の獲得、こだわりに対する改善、運動(微細運動、粗大運動)、言語、目と手の協応、認知(形や線、色等)、対人関係の改善等の課題を設定し、確実に力を獲得していく事を目指します。
その他詳細情報についてはNPO法人ふみ月の会ホームページにてご確認下さい。
text by 界外亜由美
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業