わたしの子育て、自分育て。
わたしの子育て、自分育て。
両育わーるどのレポートとしては初となる、障害児の親御さんにお話をうかがいました。当HPのトップページの写真の右側の女の子のお母さんです。子育てしてきた中での思いを率直に語っていただきました。
野口和代さんには、3人のお子さんがいます。長男・ツユヒサさん、次女・サキさん、三女・エミさんです。2011年に軽度の発達障害のあった長女を亡くし、現在は3人のお子さんと暮らしています。
長男のツユヒサさんと三女のエミさんは、自閉症を抱えています。2人とも言葉でのコミュニケーションが難しい、中〜重度の障害です。ツユヒサさんは身の回りのことや簡単な家事はできるそうですが、エミさんは、ツユヒサさんと比べると障害の度合いは重いこともありなかなか難しい。また、末っ子ということもあって甘えん坊だそうです。
いたって普通の生活だけど、ときどきトラブル発生
毎日お忙しい中で、みんなが帰ってくる夕方からは、特にお忙しいのではないかと思います。
エミは高校(特別支援学校)が終わると、療育施設で夕方まで過ごします。エミを迎えに行って、作業所に通っている長男を迎えに行って、帰って来るのが夕方過ぎ。それから晩ご飯を食べて、趣味の弓道をしに道場に行きます。次女がいるときはエミを預けて行きます。
エミさんが特別支援学校に通っていると仰っていました。障害のある子供の通学先は「通常学級」「通級学級」「特別支援学級」「特別支援学校」*などありますが、ツユヒサさんはどちらに通っていたんですか?
普通学校の特別支援級です。一緒に遠足などに行っていたので、同じ学校だった普通の子たちは顔なじみです。だから大きくなっても声をかけたりしてくれるんですが、障害がある人に親も子も接する機会がないと、ただの変な人にしか思わない。未知のものって怖いですからね。
長男は基本的には一人でどこでも行けるんですが、女性に近寄って片言の言葉をかけ、返事がないと追いかけることがあって、おまわりさんに何度かお世話になったこともあります。最近も小学生を追いかけたらしく、家に帰ったらパトカーが3台も来ていてびっくりしました。現在は一人で外出することはなく、いつも移動支援のヘルパーさんと一緒に出かけてます。
不審者扱いされてしまったということですか?
歩き方や言葉から、障害の程度が軽くはないとわかると思うんですけど、障害者に接する機会がないとビックリしてしまうのかもしれないですね。小学生が標的になる事件が最近多いので、親御さんも心配して通報してしまうこともあるんだと思います。
近所付き合いが希薄になってきた最近だと、認知されづらいこともあるのでしょうか?
そうかもしれませんね。また、発達障害はメディアによってずいぶん認知されてきましたが、自閉症などについての理解は、まだまだだと思います。
障害のある子を育てるということ
約30年の間、複数箇所へ送迎し、トラブルの対応をし、日常の家事や家族のフォローをし、3人の障害児を含む4人の子育てをほとんど一人でされてきたと聞きます。でも、陽気に笑って話される今の野口さんの姿はとても印象的です。お子さんに障害があることで戸惑ったり、うまくいかないことに苛立ちを覚えることはなかったんですか?
長男は多動がひどくてこだわりも強かったけど、初めての子だからわからなくて、子育てってこんなに大変なのかと思っていました。20代前半で産んだので、友だちにも子供がいなかったですし。スーパーで買い物するのも大変で、毎日同じものを買ってほしがったり、通り過ぎたコーナーに戻ろうとするとぎゃあぎゃあ泣いたり。
でも、自閉症専門の病院の先生に「パターン化する前に崩していかないといけない」って言われて。それからは泣いても無視しました。自分の思い通りにはならないんだということを理解させないといけない。こだわりが強いから、一回覚えるとあとはもうその通りにやるので、小学校3年生のときには一人でお風呂に入ってましたね。ちょっとかわいそうだったかなとも思うんですけど、厳しくしました。男の子の場合は、何もしないでいると、小学校高学年ぐらいになると手がつけられなくなって、中学生ぐらいから措置入院**になる可能性もあると言われて。
公共の場で泣かせたままにしておくというのは、肩身の狭い思いをしそうな場面ですが、根負けしなかったんですか?
「そんなの買ってあげればいいのに」とか、「うるさいのは外に連れて出るな」とか言う人もいたけど、無視しました。「だから?」って(笑)。わたし気が強いから、「言われちゃった…」と悲しくなるよりも、怒りのボルテージが上がって、「なによ」と、睨みつけちゃう(笑)。
野口さんの性格に加えて、周りで支えてくれる人の存在も大きかったのではないでしょうか?
当時は障害児は保育園に入れなかった時代です。知り合いに紹介された無認可の保育園に、園長先生のお孫さんが自閉症だったからということで、なんとか入れました。小学校に入るときも、担任の先生が「わたしがちゃんと面倒見るから大丈夫よ。もっと大変な子はいっぱいいるからね」と言ってくださったり。空き枠の出にくい療育施設にも、学校の先生や市役所から情報がもらえて入れたりしました。
野口さんのようなサポートがなかなか得られずに、苦労している方もたくさんいらっしゃると思います。人とのつながりを築くためのコツはあるのですか?
とりあえず、困ったことは言うことかな。言えば誰か教えてくれるかもしれない、気に留めてくれるかもしれない。そのためには、人との出会いを大事にすること。小さなことでも人に優しくしたり、いろんな方と良好な関係を保つのは大切ですね。やっぱり人間だから、クレームばっかりつけている人よりは、気持ちよくやりとりできる人に教えてあげようという気持ちになりますよね。
でもね、それ以前に、子育てはお母さん一人でがんばらなくていい。周りの人も、もしあるお母さんが「大変だ」って言ったら、どんなことでも手をさしのべたほうがいいと思うんです。特にわたしみたいな、4人子どもがいて3人が障害児の親から、「そんなの大変じゃないわよ」なんて言われたら、その人なにも言えなくなっちゃう。でも子ども一人でも、障害があってもなくても、その人にとって大変は大変で、大変さは比べられないから。じゃあこういうところがあるわよとか、こんな人がいるわよとか、やっぱり紹介してあげないとと思います。
ご自身の子育てを振り返ってみて、今、感じていることってありますか?
忍耐強くなりました。多少のことではもう驚かない。あと、しつけはやっぱり厳しくしなきゃいけないと思います。公共の場で騒いだり、走り回ったりするのは、障害の有無にかかわらず、してはいけないこと。「この子は障害をもってるから、何をやっても仕方がない」という考えは、その子のためにならない。結局、後で親である自分に全部返ってきますから。
成人の障害者に居場所を
今、課題だと感じていることはありますか?
大人の障害者が行けるところがない。平日の作業所は15時半に終わっちゃうし、土日はない。でも誰かが見ていないといけない。年を取った親ががんばりすぎて共倒れ状態になってどうしよう、という切実な声も聞きます。それと、わたしがいなくなったときのことが心配です。お兄ちゃんの施設入所の予約をしたんですが、100人以上待ち。とりあえず名前を載せてもらって、市の担当者に事情を説明して、もしわたしになにかあったときには、そこに入れるようにと話していますが。
障害者が社会の中で生きていくことを考えたときに、どうすれば障害のある方々がより暮らしやすくなるのでしょう?社会側が障害者に対してまだ身構えている部分もあると思います。
やっぱり幼少期から障害のある子とない子を混ぜること。それが一番自然で楽で、みんな受け入れやすいんじゃないかな。小さければ小さいほど違和感なく溶けこめるし、おかしいとかおかしくないとかじゃなくて、その人はそういう人だっていう認識ができます。育ってしまってからだと、偏見ができてしまっている。音楽や体育の時間、遠足とか、混ざりやすいところに入っていく。給食を一緒にさせてもらえるだけでもずいぶん違うかな。それでも多分いじめる子はいじめると思うんですよ。でも一方で、「ああ、こういう子もいるんだな」っていうのをわかってくれる子もいるはずなんです。
障害児の親としてだけではない、一人の人間としての自分
毎日の中で、一番ほっとする時間はいつですか?
弓を引いてるときが一番楽しい。お稽古は毎日行くし、移動支援とか短期入所などの制度をフル活用して、土日の試合にも出ます。エミが声を出しちゃうときもあるんですけど、うちの道場は「気にしないで、いいよ」って言ってくれています。そこでも人に恵まれてますね。
最後にひと言お願いします。
障害児の親っていうと悲惨な人生を思い浮かべる人もいます。でもわたしはわたしで、自分の楽しみも捨てたくない。障害者を産んじゃったから、わたしこんなになっちゃったっていう卑屈な考えは持ちたくはない。だから好きなことをやってます。我が人生悔いなしです(笑)。
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・通常学級:主に健常児が通うクラスで、軽度な障害をもつ児童も通うことがある(自治体、学校により異なる)。
・通級学級:通常学級に所属しているが、比較的軽度な障害をもつ児童に対して、その障害にあった特別な指導を行うクラス。
・特別支援学級:障害をもつ児童に対して、幼稚園、小中高校等の校内に設置されるクラス。通常学級に交流という形で参加することがある。
・特別支援学校:障害をもつ児童に対して、学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るための教育を行う学校。幼稚園部〜高校部分まである。
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・措置入院:精神保健福祉法で定めのある、入院させなければ精神障害者が自傷他害のおそれがある場合について、 都道府県知事の権限と責任において強制入院させること。
2016/2/3
text by 舟之川聖子