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知的障害者を事業の中心で活躍させるという意志から見える、障害者雇用の未来。

知的障害者を事業の中心で活躍させるという意志から見える、障害者雇用の未来。
〜丼丸茅場町店・渡部さんインタビュー〜

 

東京・茅場町。オフィスビルが立ち並ぶ中に、丼丸茅場町店はあります。ワンコインで食べられる海鮮丼の弁当はビジネスマンにとってはコスパのいいもの。ランチタイムとなれば、レジ前には多くのひとが並びます。

 

行列が続く中、一分一秒を削りながら、弁当を作り、数多く販売するという業態の中で、障害者が働き、活躍できるならば、障害者雇用の可能性は大きく広がるかもしれません。

 

今回、店舗への知的障害者の受け入れをトライしようと決めた渡部さんに、その背景や障害者雇用の可能性について伺ってきました。

 

調理場での仕事は知的障害の特性に合ったもの。

丼丸での仕事は、海鮮丼弁当を作ること、販売すること、そして容器を洗うことなどが主な仕事になります。知的障害のある方はどのような仕事を担うことになるのでしょうか。

 

渡部さんにいろいろとお話を伺っています。
渡部さんにいろいろとお話を伺っています。

「食材のカット(主に野菜)、機械を使ってのごはんの盛りつけ、食材容器の洗い物。これらが主な仕事になります。レジの奥の調理場のスタッフとして活躍してもらえればと思っています。ランチタイムになると多いときには20人くらい並んでいるので、海鮮丼、鉄火丼大盛り、ネギトロ丼ごはん少なめといったオーダーを素早くこなしていくことが一番難しいことかもしれません。」

 

 

「単純作業の繰り返しになりますが、集中的に取り組める分、知的障害者の特性に合っているのではないかと考えています。作業全体を管理するような役割は難しいかもしれませんが、一部の作業を徹底的にやれる方はいるんじゃないかな。そこに期待しています。」

 

調理場の様子
調理場の様子

 

知的障害のある方が、お菓子やパンの製造を担っていたり、野菜を作っていたり、カフェの店員を務めていたりと「飲食」に関わる仕事に就いていることは珍しいことではありません。ただ、ランチタイムに行列ができ、注文をスピーディーに捌かなくてはいけない現場はなかなかないもの。

 

店舗で一緒に働くスタッフにとっては、負荷やストレスがかかってしまう可能性は否定できず、中には穿った観点から見ている場合もあるでしょう。共に働くスタッフの方々の意識はどのようなものなのでしょうか。

 

「店舗の立ち上げの段階から、将来的に障害者を受け入れるつもりだということを伝えた上で面接、採用しているので、そこまで否定的な意見はないと思います。就労が困難な層、例えばひきこもり期間が長かったとかシングルマザーの方とか、そういった方々の雇用にも今後は取り組めればと考えているので、障害者はそのひとつのカテゴリだという感覚で私はいますし、みんなにもそう伝えています。」

 

 

障害者の就労支援に取り組む理由

障害者を雇用することは簡単に決断できるものではありません。もし簡単だと感じている社会であれば、ここまで障害者雇用に関する問題は広がっていないでしょう。渡部さんが自店舗で障害者を受け入れようとした背景はどこにあるのでしょうか。

 

丼丸茅場町店・渡部さん(左)
丼丸茅場町店・渡部さん(左)

「16歳になる長男がいるのですが、1歳半のときに自閉症だと分かりました。当時、私は金融業界で働いていて仕事が忙しく、息子の面倒は家内に任せっきりでした。自分自身も子どもの障害について理解できず、心も重たかった。障害のある子どもをどう育てればいいのか、未就学の頃は地元のネットワークもなくて、状況が良くなかったんです。」

 

「息子が特別支援学級に入って、障害のある子どもや家族との交流が増えていく中で、知的障害者の問題が自分事だけど、社会全体への問題意識として「障害者を取り巻く環境への改善」が見つかりました。金融の仕事も若くなければできない仕事と思っていたので、仕事の在り方を変えるという意味でも、障害者の雇用、就労に関する仕事をやりたいと思い、今に至っています。」

 

障害者雇用の問題は、かつては「雇用されない・働く場所がない」という問題が大部分を占めていましたが、法定雇用率の引き上げや特例子会社の設立など、障害者が働くための場所を増やす制度が進むにつれて、「やりがい・働きがい」や「障害者を雇用する価値」といったテーマも議論されるようになりました。

 

障害者雇用にまつわる課題は様々述べられていますが、渡部さんの課題意識が最も強いものは何でしょうか。

 

「仕事をすることに幸せを感じてほしいなと思っています。作業所などでの福祉的就労は、職業訓練の一環であったり、家族が子どもを預けられる時間であったりという側面がありますが、それが子どもたちにとって幸せなのか分かりません。仕事そのものが楽しい!稼いだお金を何に使おう?といった普通のひとが普通に感じているようなことを感じられる状態をつくることが大事なのではないでしょうか。」

 

知的障害者や精神障害者、重度の身体障害者などは一般就労として企業の特例子会社で働くといった選択肢があります。特例子会社も含め、福祉的就労の先にある一般就労(企業での雇用)に対する渡部さんの意見は「仕事の価値」という観点から、非常に示唆に富んだものとなっています。

 

「法定雇用率のために働いているのではないか?という疑念はやはりあります。「障害者を雇用する理由=法定雇用率の遵守」という意見は、制度的な観点から納得できるものですが、それだけだと、事業の中心に携わっていくことはできず、仕事から得られる達成感を味わうことはできないんじゃないかなと感じます。自分が会社の中でどのように役に立っているのか理解できているか。自分の仕事の意義や社内での役割、責任を認識できれば、働くことへの意識が変わっていく。そこに幸せややりがいが眠っていると思います。」

 

丼丸で作られている海鮮丼
丼丸で作られている海鮮丼

 

障害者とともに働くひとへ、そして働く障害者へのメッセージ

最後に障害者とともに働くひとへ、そして働く障害者へのメッセージをいただきました。

 

「障害者だからという意識を低くすることが大切で、仕事をする上での対等なパートナーだと思うことが大事だと思います。実際、自分が苦手なところを障害者が補ってくれることもありますし。何かができないことを前提に考えながらも、相手の可能性を過小評価しすぎない。相手が持っている何かを開花させるんだという気持ちで、共に働いていただきたいなと思います。」

 

「障害者の方に対してのメッセージとしては、仕事に就ける機会は増えてきたことで、今度は働く姿勢が大事になってくるかなと思います。事業に貢献していくんだという気持ちを持って、障害を負っていることを言い訳にせずに働いていってほしいなと思います。障害があろうとなかろうと対等に働ける社会になればいいですね。」

 

渡部さんの言葉のひとつひとつは、自身のお子様との関わりから生まれている部分もあると思いますが、障害者雇用の未来を創るためのエッセンスがたくさん込められているような感覚を覚えました。

 

「障害者だけでなく、就労が困難な層が社内に25%いても事業が回せることを考えていきたい」というのは渡部さんからぽろっとこぼれてきた言葉ですが、「障害者」だけの問題と捉えていない視点に、渡部さんの考え方の本質があるのかもしれません。

 

15/11/4
text by 佐々木一成(Plus-handicap)