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同じ目線で向かい合うことその体感が価値観を変える

同じ目線で向かい合うこと
その体感が価値観を変える


140222_satukawa_1地元・調布で街づくりを進める薩川良弥さん。「街づくりと障害者支援はリンクできる」という想いを持ちながら、NPO法人ふみ月の会が行う障害児療育のスポーツ体験のボランティアを初体験。参加前とその後でなにを感じたのか、お話を伺いました。

コミュニケーションがとれない、新鮮な反応

「1月からグリーンドリンクスというイベントを調布でやっています。簡単に説明すると、エコやサステナビリティをテーマにした地域活性化を目的とした飲み会です。世界の800都市以上で開催されているグローバルなネットワークです。今は”自分の暮らしをつくる”をコンセプトに掲げて、トークを行ったり、料理を出してお酒を片手に交流する時間も持ちます。皆が自分の暮らしをつくる事ができる為のグットアイディアをシェアする場にしたいと考えています」。

 

薩川さんは、自身がこれから取り組みたい方向性と、両育わーるどの考えた方が似ていると思い、興味をもったと言います。
「“両育わーるど”代表の重光さんと知り合い、今回のボランティアに誘ってもらいました。こういったボランティア活動を通じて、その体験がシェアされ、相乗効果が生まれると思うんです。僕は、その切り口をデザインしたい。療育の領域の外にいる自分なりのインプット、アウトプットをすることで、お互いに気づきがあったりする。当事者だと客観性に欠けることも、第三者の目線で体感できれば本質が捉えられるかなと思っています」。

 

satsu_tuika (2)薩川さんには、過去に“芝の家”という、港区が推進する地域事業にスタッフとして参加した経験がありました。そこでの活動は、子連れのママとお子さん、高齢者、小学生など街の人と関わるというものでした。障害児ボランティアは初めての体験。当日はどんなことをされたのでしょうか。
「小学生のダウン症の女の子の担当になりました。活動内容は、電車に乗ってスポーツセンターへ行き、運動するのを見守ること。施設に帰ってから避難訓練。彼女に1日付き添うというスケジュールです。スポーツセンターでは、運動したりゲームをしました。僕もできることは一緒にやったり、危ないことはないか見守る感じ。指導員の先生から指示を受けてなにかやるのではなく、子どもの反応を見ながら、喜ぶことを見つけて距離感を縮めていきました」。

 

うまくコミュニケーションはとれたのでしょうか?
「最初は、はなちゃんの意思がわからず、戸惑いました。目を合わせてくれるまで3、4時間かかって(笑)。懲りずにコミニュケーションをとるのみ。相手の反応に一喜一憂していたら、自分がもたないなと思って、そのままを受け入れようと思いました。一緒にいるうちに、このままでいいんだなって。日常生活で相手とコミュニケーションをとっていて、反応がないことってないじゃないですか。なのでは彼女の反応は、逆に新鮮に感じました」。

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自立心を阻害しない。難しい“見ているだけ”

satsu_tuika (3)「電車に乗るとき、はなちゃんが切符をなくしたんです。僕はどこに切符をしまったか見ていました。でも、これは本人が見つけなくてはいけないと思って“どこに入れたっけ?”と何度も聞き、“次は見つけやすいから、ここのポケットに入れようね”と話しあったりしました。
障害をもつ子どもたちは、自分の世界に入り込んでしまい、多くの可能性を逃してしまうように見えました。自立心をもって行動をしてもらうには、時には本人の気持ちに反することを促すケースもあります。今回の場合だと、自力で切符を見つけ出すには時間が足りませんでした。でも、その子が将来自立し、自分の生活を自分でおくるには、自らが行動を起こし、成功体験を積んでもらことがとても重要です。彼女は、帰りの切符をなくしませんでした。そういう小さな成功体験でいいんです。この子は障害があるから、とまわりの人が先回りしてなにかをやってあげることは、本人の可能性をつぶしているように思います。彼女は自分が予想していたより、自分のことができる子でした。でも、自立して欲しいために注意ばかりしたり、彼女にコミットしないのも少し違うように思います。理想を言えば、見ているだけの関係がいいのかもしれませんが、本当にただ見ているだけじゃダメ。コミットするレベルはその子の性格や障害の度合いによって変える必要があります。きっと療育だけでなく、教育や子育て、人材マネージメントでも同じことがいえるのかもしれません」。

 

その後は避難訓練。災害の様子など訓練映像を見せてから実践します。訓練終了後、担当したお子さんに異変があったそうです。
「施設へ帰ったはなちゃんが落ち込んでいたように見えたんです。どうしたんろう?と思ったんですが、理由はわかりませんでした。後で指導員から“映像が怖かったんだね”と言われました。言われてみると、訓練映像を見ているときにとても怖がっていたんです。そのとき“怖い”と言ってはじめて手をつないでくれました。僕は信頼を得たのかと嬉しかったのですが、彼女は本当に怖がっていた。それに気づけなくて…浮かれている場合じゃなかったですね」。
指導員の先生はなぜ、子どもが怖がっているとわかったんでしょうか?
「経験に基づく憶測なのかもしれません。でも、先生がおっしゃることは確かにそうだな、と腑に落ちることがたくさんありました。それを知るには1回だけのボランティアではなく、何度も会ってみないとわからないんでしょうね。だからこそ、また参加してみたいです」。

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日常生活では決して得られない気づき

「以前参加したボランティアは、健常者向けの内容で、市民のつながりを作るようなコミュニティデザインの役割が主でした。今回はじめて障害児とのボランティアに参加してみて、彼ら彼女らを“教育”するのではなくて、“寄り添う”ことが大事なんだと気づきました。一番ぴったりくる言葉は“向かい合う”でしょうか。上から目線でも、下からでもなく同じ目線で、彼女の未来のためにできる一番いいことを考える。僕の場合、“助けてあげよう”と下からのアプローチが多かったんです。向かい合う視線をもってないと、接し方のアプローチを間違いかねません。僕は、行動を阻害しないサポートを心がけました。消耗はしたけれど、ネガティブではなく清々しい消耗。とてもいい時間を過ごせました」。

 

最後に薩川さんから、ボランティアに興味ある人へ向けてメッセージです。
「これからボランティアに参加してみたい、と思う方にはその目線の差をぜひ体感してほしいです。同じ目線に立って、向き合うことは、どのジャンルでも必要なコミュニケーションスキルです。ビジネスの分野でも間違いなく必要ですし、こういった体験は学校では学べません。やってみないとわからないことってあると思います」。

 

 

2014/2/22 スポーツセンターでの運動と避難訓練
2014/3/5 Text:四街道ふみ