イベント&レポート

eventreport

療育ボランティアは、ライフワーク

療育ボランティアは、ライフワーク

調布の療育施設「ふみ月の会」(児童福祉法に基づく放課後等デイサービス提供施設)でボランティアをして2年半になる星野勝太さん。「たまたま見つけて行ったら、楽しくてハマってしまった」という活動の魅力やご自身の変化について聞きました。

ボランティア自体がはじめてだったけど、最初から楽しかった

 

140822-23_hoshino (10)ボランティアをはじめたきっかけはなんだったんですか?
普段は東大和市役所で働いています。大学を卒業した後、ゼネコンで10年間現場監督をしていたんですが、寝ないで仕事する日々をずっと繰り返すのがいやで、市役所に転職しました。そうしたら時間ができてしまって、妻に「週末に家でごろごろしているより、あんた絶対ボランティアが合ってるから」と言われて。それまでボランティア活動は全くしたことがなかったんですが、時間もあることだしと思って、調布市内で福祉のボランティアを探しました。そこで、たまたまふみ月さんが募集しているのを見つけたんです。説明を聞いていたら、「ああ、なんか楽しそうだなあ」と思って参加することにしました。

 

どういうプログラムに参加されてるんですか?
子供たちの福祉施設に来ている10人ぐらいの子たちが集団で移動したり、同じ活動に取り組むことへのサポートをするボランティアです。毎月土曜日に2回参加する機会がありますが、時間があるときに、月1回から2カ月に1回の頻度で参加しています。10時から16時で、その後スタッフの方とふりかえりの時間があります。

 

最初に参加したときのことを教えてください。
知的障害のある子供と関わったことが全くなかったので、どう接すればいいのか、はじめは正直ドキドキしました。でもスタッフの方が、「肩肘張らず普通に接してください。ダメなことはダメと言ってくれればいいですから」と言ってくださって、はじめは緊張してものすごく疲れたんですけど、二回目からは少しずつリラックスできました。一回目に担当した子がものすごく感情豊かな子で、泣いたり笑ったり、走ったり止まったり、勝手に行ってしまったり、とにもかくにもストレートで、「ああすごいな」と思いました。その子は普通に会話やゲームもできるけど、少し落ち着きがなかったりする、最近よく言われている軽度の発達障害の子です。最初から楽しかったので、また行こうと思いました。

 

次はどんな子を担当したんですか?
慎太郎くんという当時高校1年生の男の子で、言葉がなかなか難しい子でした。でも自分から一生懸命伝えようという感じはある。「あれ、前回の子とは違う」と思いましたが、どうしたら自分の気持ちを伝えられるのか、慎太郎くんが何を考えているのかを、目の表情も見ながら、6時間の中で一所懸命探りました。なにも経験がないから難しかったんですが、「ちょっとわかったかな」という感覚が少しだけもてて、それがまた行きたいと思えるきっかけになりました。施設には、コミュニケーションがとれる子から、ダウン症や自閉症の子のなかには、言葉を持っていない子までいろんな子がいます。

 

活動していて、どういうところが一番大変ですか?
大変なところは、実はそんなにないと思ってます。大変だったら続けてないし。体は疲れるんですけど、辛くはないですね。「ああ今日も疲れたなー」と思うけど、その疲れが心地良かったり、またあそこに行ってみんなと顔を合わせたいなという前向きな気持ちです。

 

信頼関係がうまれた宿泊訓練

140822-23_hoshino (3)140822-23_hoshino (4)

とても楽しかったという、長野での宿泊訓練のことについて聞かせてください。
8月にバスで2時間ぐらいかけて蓼科高原に行きました。僕は、夕貴ちゃんという中学1年生のダウン症の女の子の担当になって、二日間一緒に過ごしました。初日にけっこうドッキリしたことがありました。バスに乗っている途中で、夕貴ちゃんが「トイレに行きたい」という発信をしたんです。言葉でコミュニケーションも取れる子ですけど、不安があったときに違う言葉を使うことがあるから、いろんな要因を考えて、「たぶんトイレではない」とその時僕は判断したんです。それで「我慢できる?」と聞いたら、「我慢できる」と応える。でも次のパーキングの手前で、やっぱりトイレに行きたいという表現をした。つまり、ほんとうは最初からすごくトイレに行きたかったのに、僕とのコミュニケーションや関係性の中で、次のパーキングエリアまで我慢してくれたんです。そのことにすごく驚きました。我慢ができる子であれば、そこはなんとも思わないんですけど、それが難しい子が20分以上も我慢していた。これはすごいことなんです。ハイキング中も「空が青いね」という情緒的な表現を、うまく言葉にしてるのはすごいなと思いましたし、他にも、穴の中に足を突っ込んじゃったときに、泣くかなと思ったら、「痛い!」とだけ言って、「大丈夫?」と聞いたら、「大丈夫」と答えたり。今ちょうど思春期で難しい時期なのに、いい関係がつくれたんだと思います。走ってきて思いっきり足を突っ込んだら、「もう歩かない!」という状態をイメージしてたんですけど、ちゃんと立ってまた歩いて行ったところに成長を感じました。

 

それは周りの大人の関わり方次第で子供の状況が全然変わるということなんですね?
そうだと思います。やっぱり理解してあげるということが彼女にとってはすごく大切なんです。一所懸命伝えたい気持ちが強い子なので、言葉を発するんですが、その言葉がうまく表現できなかったり、気持ちとは違うことを言ったり、違う行動をとったりする。その一所懸命をうまく受け止めてあげて、日々の積み重ねから推測するなり、汲み取ってあげると落ち着くんです。去年も夕貴ちゃんと同じハイキングルートを歩いたんですけど、その時は砂利道の坂が登れなかった。ダウン症の子は筋力が弱くて足元が不安定なところは苦手らしいんですが、僕はそれを知らなくて、どんどん行こうと引っ張って行ったら、途中で泣いちゃったんです。そういう経験もあったので、今回は、彼女なりのペースだけれども、みんなに遅れないようにというアプローチをしたら、途中止まったり、「待って」と言いながらも自分の力で歩いて行きました。

140822-23_hoshino (2)

成長ですね。そして星野さんも成長している。
その通りだと思います。去年は相手のことを汲み取れてなかったんです。去年は、布団に入らなくてずっとはしゃいでたのを「元気だな」と思ってたんだけど、スタッフの方と振り返りをしたときに「それは不安を隠すため」と言われました。でも今年は、寝る時も、親と離れて一人で布団に入れて、不安なこともあるんだろうけど、ちゃんと寝ようとしてたんですよね。信頼関係が少しずつできて安心して寝られたのは、一年での大きな変化です。ほんとにうれしかったです。

 

他には何か印象的なことがありましたか?
夕貴ちゃんは所長さんのことがすごく気になっているんですが、自分からアクションを取れない日々がずっと続いていたんです。それが「待って」という表現を、それも誰のフォローもなしで、一回でできたことも印象的でした。

 

所長さんは普段から接しているのになぜ難しいんですか?
夕貴ちゃんは所長さんのことが好きなんですが、自分が所長さんに持ってる感情を言葉で表現するということが難しいんです。すごく言葉が上手なんですけど、所長さんに対する気持ちだけがねじ曲がっちゃう。思春期特有の、気持ちを素直に出せない感じです。それを一所懸命自分で言葉にすることによって、所長さんが待ってくれた。「自分の気持ちを発したことによって、問題が解決できた」わけです。それを繰り返していくと、「自分の気持ちを素直に吐き出すと、相手は分かってくれるんだ」という気づきになる。そういうのが見えるとこっちもうれしいし、去年と比べるとそれだけの違いがあるというところもあります。気持ちが不安定になると大きな音を出したり、声を出したり、物を投げたりする子がいると、怖がって不安定になりがちなんです。でもその2日間はあまりならなかったんですよね。たぶんすごく怖いと思うんですが、不安があまり出にくかった。夕貴ちゃんの中に星野がいて、一緒にいれば助けを求めたり、少し気持ちが安らぐというふうに、少なからず僕のことを認識してくれたと思います。ずっと一緒にいないと信頼を得るって普通の大人でも難しい。ましてコミュニケーションを取りづらいので、気持ちをぶつけないと、気持ちで返してくれない。「本当に大丈夫だよ、安心してね、信頼してね」というところをぶつけないと向こうも返してくれないから、常に試行錯誤です。

140822-23_hoshino (1)140822-23_hoshino (5)

2年半をあらためて振り返ると、子供たちの変化は大きいですね
やっぱり成長してるんだなって思います。たとえば先ほども話した慎太郎くんは、今でもそんなにうまく上手にしゃべれないですけど、僕と出会ったときよりも自分の気持ちの発信が上手になってる。トイレに行けなかった子が行けるようになったり、食事を座ってできない子が、できるようになったとか。ちょっとずつの変化なので普段はなかなか気づかないんですが、年単位で振り返ってみたら、すごく違うと感じます。

 

本気の人たちと一緒に、ずっと関わっていきたい

こどもたちの変化に驚く一方で、星野さん自身の変化ってありましたか?
彼ら、彼女らと付き合うことによって、自分も表現豊かになった気がします。もともとおしゃべり上手だという自覚はあるんですが、本当のことが言えるようになってきたかな。昔はちょっと取り繕いながら、隠したりカッコつけたりしていたんだけど、もっと弱いところもさらけ出しながら社会でコミュニケーションしている自分に気づくんです。

 

それはすごい変化ですね。そんなの出したら傷つきそうで怖くないですか?
すごいと思います。でもそっちの方がいいし、楽しくなると思います。ふみ月さんが直接のきっかけかはわからないけど、他の社会活動などもどんどんやるようになりました。

 

周りの人にこのボランティアを勧めたいですか?
周りの人は「偉いね」っていう人がほとんど。たまに面白そうと言う人もいるんですが、本当にそう思ったら自発的に飛び込んで来てくれないかなっていう思いもありつつ、「一緒にやろうよ」と手を差し伸べてみようかなと迷っているところです。自分からはじめたものじゃないと続かないと思いますし。僕自身、きっかけは家族からだったけど、電話をしたのは自分が起こした行動。でも、せっかくだから無理矢理でも引っ張って行って、一緒に経験して、「おお楽しい!」って思ってくれるのもありじゃないかと。普通に言葉でコミュニケーションできる人たちと常に接していると、どうしても押し付けたり、多様性を受け容れにくいような気がするんですよ。それが知的障害の方々のいる世界に行くと、「あ、こういう子も、こういう子も、こういう子もいる」という状況なので、自分がさらに多様さを受け容れる必要性がある。言葉をしゃべれるからこそ狭めている部分が、新しいコミュニケーションを知ることによって広がるし、発見があると思います。

140822-23_hoshino (6)

星野さんの中で子供たちとのボランティアの場ってどんな場所ですか?
僕がボランティアを続けてる理由は、子供たちはもちろん、そこで働いている人たちと会いたいという思いもあるんです。スタッフの方たちは、親の目線で子供たちの将来を本気で考えている。それは仕事だけで割り切るとできないことで、その本気度合いは、そばにいるだけでも伝わってきます。だからここは、力をもらえる場所であり、自分を発見できる場所であり、気持ちを解き放てる場所でもあります。僕ももっとがんばろうと思える。

 

今後も続けていくつもりですか?
僕からするとまだ2年っていう感じ。もっと見ていたい。もっともっと知りたいです。療育ボランンティアは、僕にとってのライフワークです。

140822-23_hoshino (12)

 

14/8/22-23 宿泊訓練
text by 舟之川聖子
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業