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ボランティアで学んだことを社会の中で生かしたい。 Vol.2

ボランティアで学んだことを
社会の中で生かしたい。 Vol.2

<対談>埼玉大学教育学部教授 沢崎俊之(さわざき・としゆき)先生×両育わーるど理事長 重光喬之(しげみつ・たかゆき)。
学校臨床心理学やカウンセリングの専門家である沢崎先生は、療育施設の宿泊訓練に15年以上参加されています。今回の対談では、「両育わーるど」の目指す未来について語り合いました。

療育施設「ふみ月の会」の宿泊訓練

沢:「ふみ月の会」とは、もう15年以上のお付き合いになります。私がまだ大学院生だった頃、自閉症児の合宿に参加して、そこで所長さんと知り合いました。それから、合宿のお手伝いをするようになりました。一泊二日の宿泊訓練なのですが、昨年は長野県の蓼科高原へ行きました。小グループに分かれて車山高原を散策したのですが、大人であれば1時間程度で回れる場所も、ちょっとした段差を越えることが難しいお子さんもいるので大変です。

食事も訓練のひとつです。偏食が多い子、箸が使えない子等、いろいろな子供に合わせたやり方で工夫しているんです。例えば牛乳が苦手な子にコップいっぱい注がれた牛乳を渡して、「少しだけ飲みましょう」って言っても難しいですよね。特に自閉症の子は「少しだけ」ということが理解しづらいので、コップに注ぐ量を減らして、「飲みましょう」と言うんです。そして、飲めたらしっかり褒めます。箸が使えない子には、「箸を持って」と言うのではなく、「まず椅子をひいて姿勢を整えましょう」というところからアプローチしたりします。そういった指導を見ていると、すごく勉強になりますね。今年は私が担当している子が宿泊券を手作りしてくれたのですが、合宿をこんなにも楽しみにしてくれているのだと感動しました。私にとっても、一年に一度、日頃の忙しい生活から離れて子供たちと過ごす大切な時間なんです。

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重:指導などで厳しいと感じる場面もありますが、子供たちがはしゃいだり、ホッとするような出来事もたくさんあっていい感じなんですよね。

 

沢:たしかに「ふみ月の会」の指導には厳しさもありますね。でも、根底には、優しさや温かみがあるんです。そんなところに惹かれて、合宿に参加し続けているんです。私の専門はカウンセリングですが、お互いに学びあっている部分があります。

 

療育とカウンセリング

141021_sawasaki (5)沢:基本的にカウンセリングは、本人が自分で道を見つけるのを支援するんです。そのため、話を聞いたりすることが中心になります。「ふみ月の会」の療育は、カウンセリングとは全く異なるアプローチをしています。前回の合宿では、犬の苦手な子が宿泊先のワンちゃんと触れ合うといった訓練がありました。恐怖心や偏食は個性だという考え方もありますが、その子の人生を狭くしてしまうかもしれませんよね。「ふみ月の会」では、その子がこの先、自立して生きていくために克服した方がいいと思ったことは、乗り越えられるように支援するんです。もちろん、職員のみなさんがしっかり見極めた上で行われているのだと思います。

 

重:犬が苦手だった子は、今でも犬がそばにくるとイヤな顔をするけれど、触れることができるようになったんです。道を歩いていたら、犬とすれ違うことは普通にありますよね。これまでは、犬がいるかもしれないという恐怖心から、一人で出かけることが難しかったのですが、今は犬がいてもやり過ごせるようになりました。その子は以前に比べて、ものすごく生きやすくなっていると思います。

 

沢:どんなことに挑戦するのか。挑戦して無理だったら諦めるのか、何度も挑戦し続けるのか。どんなタイミングで挑戦するのか。その子にとって必要なことは何かという線引きはすごく難しいと思います。カウンセリングとは異なりますが、ひとつのアプローチだけが正しいわけではないし、そのあたりは「ふみ月の会」でものすごく学ばせてもらっていますね。

 

重:火を怖がっている子がヤカンでお湯を湧かしたり、刃物を怖がっている子が果物の皮むきに挑戦したりします。時には怖くて泣いてしまうこともあります。でも、今ではみんなにお茶を淹れてあげられるようになったり、梨の皮をむいてみんなに振る舞うことができるようになった子がいます。火や刃物は怖いけれど、みんなに喜んでもらうことが好きな子供たちは、苦手なことを克服したことでものすごく達成感を感じているようです。そういった子供の将来を見据えて、いろんなことに挑戦しているのだと思います。

 

両育と社会

重:20代の頃は民間企業で働いていたのですが、当時から、社員同士がもっとコミュニケーションを取ったら、いろんなことが変わるんじゃないかと感じていました。ボランティアを通して子供たちから学んだことを社会の中で生かせたら、みんなもっと楽に生きられるんじゃないかと思うんです。そういった思いから、この活動を続けているんです。

 

沢:目指す方向は本当にすばらしいと思います。

 

重:まずはボランティア体験のレポート記事をWebで発信することからはじめているのですが、次は様々な療育施設の紹介をしたいと思っています。ひと口に「療育」と言っても、施設ごとに理念や方針が違うんです。親御さんも施設の理念や方針を知った上で、その家庭の教育方針や子供に合った場所を選びたいですよね。しっかり情報発信をしている施設は少ないので、「りょういく」サイトで紹介したいと思っています。

あと、「りょういく」サイトに求人情報を掲載して、職員と施設のマッチングもやりたいと思っています。昨年、施設運営コンサルティング業務のひとつとして、1000枚くらいの履歴書を見て300人くらい面接をしました。その中で、福祉業界の求職者と施設のより良いマッチングが必要だと感じたんです。ある大学の学生課の主任さんともお話したのですが、施設の情報がちゃんと学生さんに届いていないそうです。しっかり情報発信することで、求職者と施設の両方がハッピーになればいいですよね。こういったことを積み上げていった先に、企業の社員研修も実現すると思っているんです。

これまでは「ふみ月の会」の支援に注力していたのですが、次第に他の施設からも声がかかるようになってきました。他にも、調布市のヘルプカード(障害のある方が災害時や日常生活の中で困ったときに、周囲に自己の障害への理解や支援を求めるため、緊急連絡先や必要な支援内容などが記載されたカード)の普及啓発イベントをやらせていただいたこともあります。少しずつですが前に進みはじめていると感じています。私のような民間企業で働いた経験のある人の転職先として福祉業界が視野に入るようになったら、いろいろ変わるんじゃないかと思っています。

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沢:ぜひがんばってほしいです。他人も自分もそんなに好きではなかった重光さんが、ボランティア経験から変わったことを原点に、それを他の人たちにも伝えたいというあたりがすごく心に響きました。やり方はいろいろあると思いますが、その気持ちを持っていることが一番大切なことだと思います。これからも応援させてください。

 

重:とにかく情報を発信しつづけることが大切だと思っています。私の他にもやりたいと言う人が現れて、どんどん実現していったらいいなと思っているんです。今日は沢崎先生とお話できてよかったです。ありがとうございました。

text by 界外亜由美
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業