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親や職員さん以外の大人がやって来る。 それだけで充分ボランティアになると思います

親や職員さん以外の大人がやって来る。
それだけで充分ボランティアになると思います

 

「施設に行くたび、新しい発見があるんですよ。それが楽しくて続けているんです。義務感じゃ続きませんよ」。調布市で陶芸教室を運営する馬場咲夫さんは、9年間、療育施設のふみ月の会でボランティアを続けてきました。そんな馬場さんに、なぜボランティアをはじめたのか、どうして9年も続けているのか、詳しくうかがいました。140920_baba_2

家族関係の行き詰まりをきっかけに、
仕事とはまったく違うことをやってみたいと思った。

 


140920_baba4はじめてボランティアに参加した時のことを教えてください。

ボランティアをはじめるより前に、ふみ月の会で陶芸教室の先生をしていたんです。教室をはじめて3年くらい経った時、陶芸の先生としてではなく、ボランティアとして関わってみたいと思ったんです。その頃、なんて言えばいいのか……自分に自信がもてなくて。当時、高校生だった長男が家の中で暴れるようになって、どうしていいか分からなくて……。そんな時、陶芸以外のことをやってみたいと思ったんです。それから月に1回、ボランティアに行かせてもらうようになりました。今では名刺にも、「仕事以外のボランティア」って項目を設けているんですよ。

 

ボランティアをはじめてどれくらいになりますか。
もう9年になりますかね。ボランティアって、仕事とはまったく違うことをやらせてもらえるから面白いんです。そして、あの、こんな風に言っていいのか分からないんですけど……、施設は人間の縮図のようで面白いんです。急に騒ぎ出す子がいたり、つらいはずなのに笑ってしまう子がいる。私の予想できないことをする子がいるんです。

 

なぜ9年間も続けているのでしょうか。
なぜでしょうね……。人を観察するのが好きだからかもしれません。「ここは面白い人がいっぱいいて楽しいですね」って施設長さん(ふみ月の会・所長)に言ったことがあるのですが、「(そういう理由でボランティアに参加しても)いいんですよ」って言ってくれて。福祉施設で働いたこともないし、障害についての知識もない。そんな自分にも何かできることがあると感じられるのも、続けている理由のひとつかもしれません。

 

9年間のボランティアで、特に印象に残っていることを教えてください。
いろいろありますけどね。印象に残っている人といえば、Yさんですかね。当時、Yさんは30歳くらいでした。今、ふみ月の会は子どものための療育施設ですが、以前は大人の利用者もいたんです。Yさんは身体が大きいので、小柄な施設長さんがYさんを見上げて叱っているのが印象的でした(笑)。Yさんは重い自閉症で、いろんな内容を組み合わせて伝えることが苦手なんです。イヤなことをイヤだと言えないので、Yさんがどう思っているのかよく分かりません。ものすごくつらくなると、逆に笑ってしまったり。それまで、知的障害をもつ子どもと接したことはありましたが、そういった大人と接したことがなかったので、印象に残っています。(壁を指差して)そこにある暑中見舞い、Yさんからもらったものです。毎年くれるんだよね。

 

つい最近、知的障害をもつ高校生を担当したのですが、ひとりでトイレに入っていったので外で待っていたんです。ところが、彼は自分でおしりを拭くのが苦手なんだと後で知りました。私はお年寄りの施設の陶芸教室もやっているので、そういったことに慣れていると思い込んでいたのですが、まったく気がつきませんでした。障害の他にも、病気やケガなど、大人がひとりで排泄できないことは別に珍しいことではないし、普通にあることだと思うんです。でも、その時は気がつかなかった。ボランティアをやっていると、自分の勝手な思い込みに気がつくことがよくあります。

 

ボランティアをしていて、つらかったことはありますか。
それはないですね。ボランティアは、行きたくなければ行かなくていいんです。施設の職員さんは、経営のことや親御さんとの関係など、難しいこともあると思いますが、ボランティアにはそういったことはありません。子どもたちと一緒に遊ぶことは単純にたのしいし、毎回、子どもたちから教えてもらうことがあります。まあ、すべての人が楽しいと感じるわけじゃないのかもしれないけど(笑)。

 

ボランティアのきっかけになった、息子さんのことをもう少しお聞きしても良いですか。
いいですよ。子どもは好きなんですよ。自分の子どもも、人の子どもも。息子が小さい頃はよく一緒に遊んだつもりです。息子が高校生になった頃から10年くらい苦しみましたね……。あまりにひどく暴れるようになった時、家を出て行ってもらったんです。それからしばらく会っていなかったのですが、昨年、身内の葬式を機に、少しずつ顔を合わせるようになりました。今でも上手くいってるとは言えませんよ(笑)。でも、ボランティアをはじめてから、息子との関係について自分なりの結論が出たんです。それまで、自分の子育てのどこが間違っていたんだろう、転機はどこだったんだろうと散々考えました。でも、分からないんです。結局、過去のことを考え続けても何も変わらないから、もう自分を責めたり、原因を探し続けるのは辞めようと。そう結論付けることができたんです。こういう風に考え方を変えることができたのは、ボランティア活動が影響しているのかもしれません。

 

少し曲がっていても、それが味になる。
誰でも良い作品をつくれるのが陶芸の良いところ。

 

療育施設での陶芸教室について教えてください。
粘土のグニャッとした感触が気持ち悪いという子もいるし、今までに触ったことがないものを触れない子もいるんです。そういう時、職員さんは「だいじょうぶ。粘土ってグニャグニャするものだから、心配しなくていいよ。さあ、お兄さんになってがんばってみようか!」といった感じで、上手く子どもの気持ちをフォローしたり、盛り上げるんです。見ていてすごいなあと思います。

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職員さんは毎日子どもたちと接していますが、私は月に1度しか会いませんからね、子どもたちが私を警戒しているのがよく分かります。はじめてボランティアに来た人はもっと警戒されています(笑)。ところが、職員さんと子どもたちの間には、信頼関係があるんですよね。信頼している職員さんが、「触ってみよう」って声をかけると、子どもたちは触ってみるんです。私が言っても絶対に触らないんですよ(笑)。職員さんたちは信頼関係をベースにして、子どもたちのできる範囲を広げていっちゃうんです。

私が子どもの頃、何かを教わるということは、やってはいけないことについて教わることがほとんどだったと思います。でも、最近はできたことを褒めて次の段階へ進める教育が増えていると感じます。ふみ月の会では、後者の教育を徹底してやっているんです。苦手な食べ物も、まずはほんの少しだけ口の中に入れて、だんだん食べられるようにする。強制的にやらせるのではなく、まずは信頼関係をつくり、その上で「やってみようね」と声を掛けていると、いつの間にかできるようになっているんです。そういう教育を見たことがなかったので、感動しましたね。陶芸教室でも、粘土を触れなかった子が一回触ったとたんに平気になってしまったり、少しずつ慣れていく子がいます。そういう姿を見ていると、またここに来たいなって思うんですよね。

 

ひとりではうまくつくれない子に対して、先生やボランティアはどこまで手伝うのでしょうか。
それはとても難しい問題ですね。お年寄りのデイサービスや老人ホームの陶芸教室でも、それについて悩むことがあります。お年寄りの施設では、ご家族に「入居して幸せですよ」って伝えてあげることも大切なんです。だから、あんまり変な作品だと家族が嫌がるかなと思い、見栄えが良くなるよう手を入れちゃったり。もちろん、なるべく自分でやってもらいたいとは思っています。先日、ふみ月の会で、私のつくった見本をもとにみんなにつくってもらう教室をやりました。これはその中のひとつなんですが、すごく良い作品でしょう?

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この作品をつくった子は、世話焼きタイプのボランティアさんとペアになっていました。ボランティアさんが胴体をつくっているのを見て、内心、「あ、手を出しているな……」と思いました。でも、そこに子どもが手足を付けたら、すごく良い作品ができたんです。その子がひとりで全部つくるのは難しかったと思います。それを見て、こういうやり方もいいなと思いました。しかし、この作品は本当に良いですね。僕のつくったものより良いですよ(笑)。ここの子どもたちは、私がつくった見本より良いものをつくっちゃうから不思議ですね。手なら手、足なら足、すべての部分に真剣に向き合ってつくってる。その思いが作品から伝わるから良いんだと思います。全体のバランスなんて関係ないですよ。目がどこに付いてたっていい。陶芸は良いものの幅が広いんです。少し曲がっていても、それが味になったりする。だからこそ、いろんな施設でできるし、喜んでもらえる。家族や職員さんに褒めてもらったり、参加者がお互いに褒め合ったり。そういうコミュニケーションの種にもなります。

 

ボランティアは、義務感では続きません。
面白いから、楽しいから続けているんです。

 

馬場さんのような社会人ボランティアって少ないのでしょうか。
いえ、いますよ。仕事を休んでボランティアに来る人もいます。きっかけはそれぞれだと思いますが、やってみたら面白かったとか、楽しいから続けているんでしょうね。仕事と違って、義務感じゃ長続きしませんから。私は障害児のボランティア以外に、震災支援のボランティアもやっています。震災の6カ月後に、調布市社会福祉協議会が主催しているボランティアに参加して、岩手県で瓦礫撤去をしました。その中で、大変な状況の方々と陶芸を楽しもうと思い立ち、翌年の2012年から年2回、陶芸教室を開催しています。毎回、現地の方々と再会することや東京からのスタッフとの合宿を楽しみにしているんです。

 

通常の教室とボランティアの教室の違いはありますか。
仕事だから、ボランティアだからといって、特に違いはありませんよ。ただ、仕事をボランティアにしちゃうと収入がなくなって困ってしまいます(笑)。震災ボランティアの陶芸教室は、遠い場所だからいいかなと(笑)。ボランティアだと、良い具合に力を抜いて向き合うことができるとは思います。できるときにやればいいんだと分かってますから。あと、仕事を離れると自由にできることが増えます。行政でできないことをNPOがきめ細かくやっているのと同じかもしれません。行政だと、どうしても線引きをしなければならない部分があります。でも、NPOや個人でやる場合は、状況に合わせて臨機応変にやれるわけです。陶芸教室も、仕事なら受講料をいただくという線引きがある。でも、ボランティアなら誰でもどうぞって言える。そんな風に、垣根越えられるのはうれしいですね。後は単に世話好きだから楽しいというのもありますが(笑)。

 

友人や知人をボランティアに誘ったことはありますか?
以前はよく誘いました。今も興味をもってくれる人はたくさんいるんですけど、中には合わなかったって言う人もいます。最初から面白いと感じる人は少ないのかもしれませんね。はじめてボランティアに来た人は、何を求められているのか、どんな風に子どもと接して良いのか分からず、ハードルが高いのかもしれません。私は何度か陶芸の先生として施設に行った後にボランティアをしたので、関わりのステップが良かったのかもしれません。いきなり大きな声を出す子どもがいるなど、そういった状況に慣れるまで時間がかかるのだと思います。

あるボランティアさんが、「椅子に座ってごはんを食べよう」と言っても、子どもはまったく動かないことがありました。ボランティアさんは必死で言い聞かせようとするのですが、どうにもなりません。そこへ職員さんがやってきて、「もう辞めなさい」って声を掛けると、すぐに「ハイ」と返事をして椅子に座ったんです。こういうことはよくあるのですが、はじめて来たボランティアさんにはつらいでしょうね。私も今は慣れましたが、最初は無力感を感じました。職員さんは毎日子どもと接しているのですから、比べても仕方ないと思うようになりましたね。

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これからボランティアをはじめる人へメッセージをお願いします。
仕事って基本的には自分にできることしかやらせてもらえないと思います。でも、ボランティアはそれ以外のことをやらせてもらえる。そこには、自分にこんなことができるんだという発見があります。そして、何回か通ううちに、子どもたちが自分のことを覚えてくれるのがうれしいんです。目を合わせて、挨拶をしてくれる。ただそれだけのことが、こんなにもうれしいから不思議ですね。人の役に立ちたいと思ってボランティアに参加する人が多いのかもしれませんが、そんなに構えなくても良いと思います。子どもたちにとって、親や職員さん以外の大人がやって来ること自体、刺激になります。ただ子どもたちと楽しく過ごすだけでも、ボランティアとして意味があると思いますよ。

 

 

2014/7/12 陶芸作品作り
Text : 界外亜由美
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業