療育現場と社会とのかい離をなくしていくために
療育現場と社会とのかい離をなくしていくために
「ボランティアの声」として、2014年8月にインタビューを行った星野勝太さんを再び訪ねました。療育施設のボランティアを続けながら、現在は両育わーるどの事業に関わるなど、社会活動の幅をさらに広げています。前回から1年半後の星野さんの変化について、聞きました。
理解されるためには、知ってもらうことから
前回お話をしたときは、療育施設でのボランティアを始めて2年が経ち、新しい世界に触れてとても楽しく充実していて、これからもライフワークとして続けていきたいとおっしゃっていました。それから1年半。現在の状況や心境について聞かせてください。
今も公務員として働きながら、療育の現場にはボランティアとして足を運んでいます。最初の頃は、施設で子供と関わるのが楽しくて、それが僕の世界を広げるきっかけになっていました。4年間関わってきた今、もう少し俯瞰した目で見られるようになっています。福祉現場についてあえて言うと、「自分たちの社会につながりが全くない」、「異文化の中で生きている人たち」、「僕たちの生活してる社会とかい離している」という課題を強く感じるようになりました。福祉施設では、ボランティアの意思のある人は受け入れるけど、そうでない人にはほとんどドアを開いていない。リスク管理の面や、療育の方針が必ずしも万人に理解されてこなかった経験があったために、警戒しているのはわかるのですが、「わかってる」人だけ来てほしいという姿勢では、社会とのつながりは細く、認知は広がってはいかないと思うんです。
中側から変化を起こすのが難しいと思われる状況で、どのような課題解決の方法があると考えていますか?
知的障害や発達障害を持った子供たちの将来的なことを考えて、社会をどう変えていくべきなのか、というところに関して言うと、やっぱり理解されにくくても、知ってもらうことが大前提だと思っています。知らないと理解もできません。その一つのきっかけが、両育わーるどが進めている、児童福祉施設が社会的支援をもらい、施設は企業へ児童との関わりや活動報告などを提供する、というやり方です。企業からスポンサードしてもらって施設の運営を少し支援してもらいます。企業が介入することが、施設の組織が変わるひとつのきっかけになります。また子供と接して何かを得て帰って行ってもらう「両育体験プログラム」も始めて、知ってもらうきっかけをつくろうとしています。子供たちの成長に関わる療育・教育については、プロフェッショナルではない僕にでも出来ることと思い、今この事業立ち上げのお手伝いをしています。
自分自身を知ってもらうことで、世界がひらけていく経験を
星野さんがこの事業に関わろうとする動機はなんですか?
療育の現場と社会をつなごうとするミッションに共感していることももちろんありますが、根底には、4年間やってきて、僕自身がすごく変わってきたという実体験があります。世界が広がって、今までよりも出会う人が増えたんです。日々生活していく中で、急にいろんな人に出会えることや、きっかけが増えたんです。自分から興味のあることや、いろんなところに顔出すようになりました。そして出たことによって、受け取るものも増えてきました。それは僕の欲していたところでもありました。小さい頃から自分の殻から外に出ることはあまりなかったし、本当に世界が狭かったのですが、まずは自分を知ってもらおうという姿勢ができたら、いろんな人に接するのが怖くなくなってきた。そのきっかけが確実に両育にあります。施設のスタッフの方たちの、人との接し合い方や子供たちとのやり取りを見ていたことと、自分が子供たちと接したことが大きかったと思います。
星野さんの内面が大きく変わったように、両育体験プログラムをきっかけに「異文化」に触れることによって、他の人にもなにかよい影響を与えたいということですか?
僕はただ、「こんなにいろんな人がいるんだよ」ということを知ってもらいたいだけなんです。「なにかもっと面白いことが起きるかもよ」と言いたい。変わるきっかけをどんどん作りたい。その先がどうなっていくかは見えてはいません。両育わーるどとしてはもっと明確なビジョンがあるんですが、そことは違う僕自身の目的っていうのは、「ただ知ってもらいたい」というところにあります。そして、療育の現場に関わる人が増えたら、施設の側も変わらざるを得ないだろうというところには期待しています。喜ぶ人もいれば、仕事が増えるから嫌がる人もいる。どんな組織でもあることなので、格闘しつつだとは思います。外からのアプローチを受けつつ、中の人たちのそういう考え方をどうまとめていくか、だと思います。
*写真:児童施設でのクリスマス会でサンタクロースに扮した際の様子
自然に言える、聞ける、つながり方を
例えば「両育体験プログラム」は課題解決のためのひとつの手段ですが、社会と療育現場との最終的なつながり方のイメージはどんなものですか?
ほんとうの最終的なイメージは、もっとまちの中に、いろんな障害者が普通に出歩いていて、もっと困ったときに「助けて」と言えて、まちの人が助けられるようになること。社会の中で「困っている人」は多いですが、たまたま知的障害をもった人にフォーカスしているのは、僕が今はそこに魅力を感じていたり、僕の感覚として重要度としてかなり高いと感じているからです。「困ってる人たち」に対して、今は普通に僕らの社会の側から「なにか必要ですか?」と声をかけたり、逆に障害者から、「ちょっと手を貸してください」と気軽に言えない。双方が言い出せていない感じがあります。そこは多分知ってるか知らないかだけ。そこがちょっと変わるだけで、大きく変わるんじゃないかと思っています。
その最終的なつながり方のイメージを実現するために、今、星野さんがしているはたらきはどのようなものですか?
ネットワークが広く、発信する力のある人を、陰ながらススッと助けるのが、僕のはたらきですね。今で言うと、重光さん(両育わーるど代表)の困ってるところに、ススッと入り込む。実務はもちろんですし、「こんなふうにしたい」と思ってることがあれば、ディスカッション相手になることもあります。僕自身は、今はまだ事業者になりえないと思っていて、まずは自分ができることからやろうと思っていますが、社会を大きく変えるには、いずれ1本に絞ることが必要になってくると思います。今後、「まずい、僕自身が発信してかなきゃダメだ!」となったら、また変わっていくと思います。
課題を解決する、自分にとっての新たな挑戦が楽しい
両育わーるどなどの社会活動に関わっていて、どんなときに喜びを感じますか?
僕が最近よく思っているのは、「自分は何かを解決したい人なんだな」ということです。それは自分のことでもそうだし、他人のことでもそうだし、社会のことでもそうで。何か問題があったときに、解決したい。それが楽しいんです。僕からすると、事業の立ち上げも初めての経験で、こんな機会はなかなかもらえないので、とても感謝しています。また、両育わーるどのプログラムは、「異文化だと思っていた人たちとコミュニケーションをとることで、僕たちが学ぶものがあるよ」ということを伝えるためのひとつのツールなんですが、それを通じて人とつながれたり、知ってもらえることが、今は楽しいです。
療育、福祉の分野に限らず、ほしい未来をつくるために一人ひとりがまずできることはなんだと思いますか?
2つあると思います。ひとつめは、まず知ることをこわがらず、いろいろ知ってほしいと思います。障害に限らず、知ることは楽しいことです。何が好きとか、何がほんとに自分がやりたいことなのか、僕は今でもわからないです。でも今やってることは楽しい。そうなったのは、特に垣根を作らず、まず知ることから始めた、ただそれだけなんです。ふたつめは、自分のできることからやればいいんじゃないかということ。ボランティアに行って「無理しなくていい」「できることでやってくれればいい」とよく言われました。いきなり100%ではがんばれないけど、区切っていくことで最終的に100%になればいいから。だからできることをやっていけばいいと思うんです。
変化し続ける自分を受け入れ、好奇心のままに生きる星野さんの自然な姿が印象的でした。これからの1年後、2年後にどう変わっていくのか、次にお話をうかがうのが楽しみです。
2016/1/24
text by 舟之川聖子